『ホワイト・ブレンド』-3

何が違うというのだろう?

あの時、高耶は確かに「俺はてめえと違って初めてなんだよ。おまえだったから…良かった…」と呟いたのだ。

今の話の流れで、他にどんな意味が…?

怪訝な顔の千秋から目を逸らし、高耶は困ったように俯くと、

「ヘッドロックなんて関係ない。そんな事どうでもいいんだ。おまえじゃなきゃ誰がンな事…ッ!
 あれは…おまえが笑ったから…ホッとしただけで…」

最後はもごもご呟いて、とうとう顔半分を手で覆い隠してしまった。

「おいおい、訳わかんねーこと言ってんぞ?」

話の繋がりが、さっぱり見えない。
千秋は本気で首を捻った。

「わからなくていい! いっそ忘れろ。さっきまでのこと、全部忘れっちまえ。
 俺とおまえは今まで通り、何も変わらない…それでいいだろ?」

もう勘弁しろとばかりに千秋を押しやって、高耶がくるりと背を向ける。
その一瞬、初めて二人の目と目が合った。

ドキッとするほど真摯な瞳が、何かを訴えかけるように千秋を見つめ、答えを待たずに視線を外す。

忘れろ…って…

突っ込みを入れかけた口を閉じ、千秋はキッチンの小さな椅子に腰掛けた。

ようやく全てが腑に落ちた。

忘れたかったのは、おまえなんだろう?

バカだな。もし俺が本気でおまえを攻める気だったら、
こんな事してチャラになんて出来るはずがないのに…

本当は危うく崖っぷちだったりしたのだが、それでも踏みとどまったのは、
やっぱり俺も今の関係を壊したくないと望んでいたからで、
だからこれでおまえの気が済んだなら、それで良いとも思うけど…

「なあ、おまえマジで他の奴にするなよ。」

フライパン片手に、真剣な顔で卵チャーハンを作っている背中を、トンと指で弾いた。

「だからっ!おまえだけだって言ったろうが!
 二度としねえからな。 あんなの生涯一度で充分だ。」

フライ返しを振り上げて、高耶がビシッと言い放つ。

次は無いと釘を差したつもりだろうが、千秋は別の意味で優越感に浸ってしまった。

貰った箱を開くと、白と黒のチョコが3つ並んでいる。
甘いホワイトとビターの組み合わせが、なんだか笑えて食べずにそっと蓋をした。

窓の外は、雨が雪に変わって、ゆっくり白く染まり始めている。

「出来たぞ。食え!」
湯気の立つ皿をドンと置いて、高耶が「美味いぞ。」と胸を張った。
ピリッとスパイシーな香りが食欲をそそる。

バクバク頬張って、美味さにグッと親指を立てた千秋に、高耶が嬉しそうに笑った。

 

やっぱりずっと、このままで良い。
その方が良い。
けど俺は忘れないだろう。
あのフワリと優しい感触を…
甘くて痛い、この想いを…

「冷えてきたな」
「ああ」

穏やかな時間の中で、交わされる何気ない会話が、なぜか暖かく胸に染みていた。

(完)  

冬から早春に移ろうとする季節のお話です。
これを書いてる今は、もう5月の始めだったりするんだけど、その辺りはどうぞ無視して頂いて…(^^;
最後まで直江は出ませんでしたが、まあ、たまにはこういう時もあるよねってことで(笑)

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