いつしか雪は雨に変わり、曇った窓ガラスを濡らし始めている。
高耶は読んでいたマンガを放り出し、ごろんと寝返りを打って、フウッと溜め息を吐くと、浮かない顔で増えてゆく雨垂れの筋を見つめた。
冗談…だったんだよな?
声に出せない呟きが、今更のように胸を巡って掻き回す。
バレンタインに渡されたチョコは、千秋のバカがふざけたマネをしやがったせいもあって、勢いで食べちまったけど…
あれは本当に、俺をからかっただけ…だったんだろ?
聞けばいい。確かめればいい。
なのに俺は何もしないまま、こんなバカみたいなモヤモヤを持て余してる。
あの時は何の疑いもなく、いつもの冗談だと思えたのに…
「ああもう、スッキリしねえ!」
ガバッと起き上がって、高耶は傍らのダウンジャケットを羽織った。
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「で、どうしたいのさ?高耶は。」
お気に入りのキャラで怒涛の攻撃をしながら、譲は画面を見つめたままサラリと高耶に問いかけた。
「どうって…リベンジするに決まってんだろ!」
バァンと派手にクラッシュして、高耶のキャラが倒れ伏す。
勝利のポーズで高笑いする譲のキャラに、高耶は悔しげな唸り声を上げた。
「あはは。もちろん俺は大歓迎だけどさ。そうじゃなくて、千秋と直江さんの話だよ。」
クスクス笑って、譲が大きな目で探るように高耶の顔を覗き込んだ。
驚いて譲を見つめた切れ長の瞳は、ふるふると頼りなく揺らいで横を向く。
「いいの? ホワイトデー終わっちゃうよ。」
重ねて尋ねた譲の一言に、高耶の唇がアッと小さく動いた。
ホワイトデー?
…って、バレンタインのチョコを貰ったら、3倍返しが基本…とかって女子が言ってるアレ?
そうか…
今日だったんだ…
だから直江は、昨日あんなに俺の予定を知りたがって…
昨日のことを思い出したとたん、高耶はモヤモヤの原因に気が付いた。
きっかけは、昨日の直江の言葉だったのだ。
(あなたが冗談だと思っていても、相手が本気だったらどうするんです!)
なんて真剣な顔して言うから、気になってきたんじゃねえか。
ンな事あるはずない。
千秋は俺の友達なんだ!
顔を上げた高耶の横顔を、譲の瞳が追いかける。
目が合って、譲は肩を竦めて微笑んだ。
「ホワイトデーを知らなかったとはね…教えなきゃ良かったかな。」
外は寒いよ。と言いながら、高耶にダウンジャケットを押しやって、
「明日リベンジに来れる?」
「ん〜…わかんねえ。また後で来るかもしんないけど、いいか?」
「もちろん! 期待しないで待ってるよ。」
にっこり笑う譲に小さく片手をあげて、高耶は雨の中に飛び出した。
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