「どうしましょうか…。どうしてほしい? 高耶さん。」
微笑んだ直江を、高耶はムッと睨み返した。
「んなの、わかってるだろ。おまえってそーゆーとこ、ほんっと性格悪りぃよな。」
むくれて横を向いた顔を見ながら、くすっと楽しそうに笑った直江は、
「今回は追試なし。次回に期待していますよ。個人授業…してあげましょうか?」
すっと顔を寄せると、最後の言葉を耳元で囁いた。
びくんと後ろに飛びすさって、真っ赤な顔で
「ばっ…!!…んなのいらねえっ!」
言うと同時に表に出ようとするのを、
「待って下さい。今夜迎えに行きますから…」
慌てて言おうとしたが、高耶は廊下に消えてしまっていた。
直江は、溜息をついて椅子に腰掛けると、煙草に火をつけた。
立ち昇る煙が、揺らめいて消えてゆく。
本当は、今すぐにでも抱きしめて連れ去りたい。
けれどつれない恋人は、今日も明日も、友達や妹と過ごすのだという。
大切な家族や友人から、引き離したいわけじゃない。
あなたを苦しめることなんて、したくない。
でも…今夜一緒に過ごしたいと思うのは、俺だけなのか?
ふうっと煙を吐き出して、目を瞑った。
英語の単位など口実に過ぎない。
教師と生徒という関係を、壊すのは容易いことだが、
そうしたところで、今以上に一緒に居られるとも思えない。
こんな僅かな時間でも、ふたりきりでいる理由があるだけマシとも言えた。
ふたりだけで過ごしたい…。
ままならない現実に、直江は深い溜息をついた。
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