『霧氷』

辺り一帯を包んでいた目映い閃光が、ゆっくりと薄れていく。
どんよりと暗い空に残る白い光の残像を見つめながら、直江は目の前に立つ景虎の力を、改めて感じていた。

もう何十回と見たはずだ。
今更その大きさに驚くことなどないのに、それでも見るたびに心が動く。
圧倒されるだけではない。
それはどんなに回を重ねても、一向に慣れる気配も無く、いつもいつも直江の心に痺れるような快感と痛みを呼び覚ますのだった。

「夜叉だな…」
ぽつりと景虎が呟いた。

我らは夜叉。もう生き人ではないのだ。
そう呟く心の裏には、いいようのない悲しみがある。
けれど、この世にしがみつこうとする魂を、無理やり引き剥がして浄化させる姿は、怨霊たちにとっては鬼そのものに違いない。

「そういう道を歩く者も必要ならばこそ、我らがここに在るのです。」
直江の言葉に、景虎は薄く笑った。
「本心から言っているのか? 忠義なことだ。」

本心?忠義?
何を言う!
そうでも思わなければ、やっていけないではないか!

思わず睨みつけた直江の瞳を見つめて、景虎はスッと踵を返した。
すれ違う瞬間、吹きつける風に煽られた冷たい氷の粒が頬に当たって、直江は思わず目を瞑った。
ハッとして目を開けると、景虎の姿が霧氷の中に消えてゆく。
直江は、雪原に残る足跡を、必死になって追いかけた。

我らは夜叉。
それであっても、心は夜叉になりきれない。
人のままだ。
そしてあなたは、誰よりも人のままではないか。

だからこそ、あなたの調伏はこんなにも胸を熱くするのだ。
いつか自分が調伏されるなら、そのときはあなたの手で…と、この自分が願うほどに…
そう言いかけて、直江はすぐに考えを改めた。

調伏など、望みはしない。
自分はどこまでも、あなたと共に生きてやる。
もしも姿が見えなくても、俺はあなたを見失わない。絶対に!

雪になれない氷に、視界を閉ざされた世界の中で、直江の心は炎よりも熱く燃えていた。

              2006年3月18日   桜木かよ

 

24000キリリクです。いや〜リク頂いたのって1年以上ぶり?(笑)
こすげさんから景虎さま(もしくは景虎さまチックな高耶さん)をero無しで…
とリク頂いて書いたんですが、「艶っぽく」って書かれてたのをすっかり忘れてました(^^;
快く受け取って下さってありがとうございました!!

こすげさんからイラスト頂きました! ありがとう〜(^0^)→こちら

  キリリクのコーナーに戻る

小説のコーナーに戻る

TOPに戻る