『もも缶とりんご』

予想通りの反応だ。
(ばかやろう!)と言いたいらしい。
その表情を楽しみながら、ゆっくりと口元に近づける。
風邪で弱っているときだから、いじめてはいけないと思うのに、ついやってしまう。
怒る顔が可愛くて愛しくて。抱きしめたくなる。

高耶は、ギリギリまでムッと口を閉じていたが、こぼれそうになってやっと口を開いた。
ひんやりと優しい甘さが喉に広がる。
甘過ぎないシロップと桃の香りが、忘れていた渇きを呼び覚まし、
高耶は今更のように空腹を感じた。
「もうひとくち。いかがですか?」
嬉しそうに微笑む直江を悔しげに睨んで、高耶は少し躊躇ってから小さく口を開けた。

シロップをこぼさないように、そうっと流し入れる。
「美味しいでしょう?」
まだまだありますからね。と高耶の食べる速度に合わせて桃をすくいながら、
直江は優しく微笑んだ。
次第に口の開け方も自然になって、おいしそうに食べるようすを眺めるうちに、
ふっと直江の手が止まった。

(どうしたんだ?)
不思議そうに見つめる高耶に、すっと唇を近づけた。
(ばかっ! 伝染ったらどうするんだ!)
もがいて押し戻そうとする腕を無視して、ぎゅっと抱きしめると、
「伝染してください。」
囁いて唇を重ねた。

あなたの痛みが、全て俺に伝染ればいい。
あなたを苦しめるものは、全て俺が引き受けるから。
なにものにも、あなたを侵させない。
その笑顔も涙も…俺だけのものでいて…。

 

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