『競争』


二人きりの部屋で、ふとした隙をついて、直江の腕が高耶を捕らえた。
背中からすっぽりと包み込むように抱きしめて、
髪に顔を埋めると、シャツのボタンに手を掛ける。
「こら! やめろって!!」
抗っても、器用な男の指は瞬く間にボタンをはずし、
滑らかな肌に触れてくる。
「ん…っ…やめ…おまえ…ずるい」
切れ切れになる言葉を、吸い取るように口付けて、
「ずるい? どうして?」
直江は高耶の耳に、甘く囁いた。

「なん…で俺ばっか…いつもこん…な…」
いつのまにか裸にされた上半身に、直江の舌が濡れた音を響かせる。
「…こんな…何?」
問いかける息が熱い。
「こんなに感じてるのが恥ずかしい?」
高耶の体をベッドに縫いとめて、直江はにっこり微笑んだ。

「ばっ…!違っ!!!」
真っ赤になって否定したものの、本当は違わない。
でもさっき言おうとしたのは、違う言葉だ。
「なんで俺だけこうなんだよ。おまえは服着たまんまじゃねえか!」
赤くなった顔を背けて一気に言うと、直江はクスクスと楽しそうに笑った。
「そうですか。高耶さん、俺の服を脱がせたいんですね?」
「!!!」
違う。そうじゃない…はずだ。なんでそうなる??
頭の中がパニックになった高耶に、追い討ちをかけて直江が続ける。
「じゃあ、やってみて。いつも俺がするみたいに。」
できるでしょう?と言われて、出来ないとは言えなくなった。
「できるさ、それくらい!」
高耶は勢いよく直江のネクタイをほどいた。

シャツのボタンに手を掛けて外そうとしたとたん、
直江がすっと身を退いた。
「俺がするみたいに出来るって、言いましたよね?」
「え…う、うん。」
言ったっけ? なんか違う気がするけど…
「なら思い出して下さい。俺はどうやって脱がせました?」
…まさか…あんなことしろってか?
出来ない!と言いたくなったが、今更そんなことは言えない。
黙り込んだ高耶に、
「嫌ならやめてもいいんですよ?」
と直江が言った。
その言葉で、高耶の気持ちが決まった。
「いいか。やめるって言った方が負けだからな!」
どこからこうなったのか、二人のおかしな競争は、こうして始まった。

直江の広い背にぴったりくっついて、おもいきり手を伸ばしたのに、
シャツのボタンが外れない。
「くそぉ…もうちょっと…」
体格の差と言ってしまえばそれまでだが、同じことができると言った手前、
出来ないでは済ませられなくて、高耶は夢中で頑張っていた。

肩に高耶の息が触れる。
シャツ越しに感じる体温が、もどかしさを募らせる。
自分から抱きしめてくるなんて、初めてのことなのに、
きっとこの人は、気づいてもいないのだろう。

初々しい羞恥から出た言葉を、わざと煽って誘導したのは、
高耶の方から求めてくるというシチュエーションを、
ちょっと味わってみたくなったから…なのだが、
実際に始まってみると、案の定、高耶にはそんな気持ちは通じていない。

でも、それはそれで、高耶らしくて微笑ましかった。
予想外だったのは、色っぽさのかけらもない動きにも関わらず、
背に感じる温もりと鼓動。
ぎゅっと締め付けてくる腕の感触。
シャツを手繰る指先。
なにもかもが愛しくて、体が熱くなる。

ボタンにかかる指を、そのまま捕らえて口に含んでしまいたい。
そんな欲求に駆られて、直江は思わず吐息を漏らした。

 

え〜と、この先はウラを作ったら…ね(^^;
なんて言いながら、そんな予定は全然ないんですが(笑)
またいつか、この続きをUPするかもしれません。ま、私だからヌルイこと確実だから(笑)
「桜木の種」にウラがこそっと出来てたら、笑ってやって下さい〜(^^)

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