『熱波こぼれ話−2』

「なんだ仰木、その格好は。風邪をひいたから泳げないとでもいうつもりか?」
大嫌いな体育教師の嘲りを込めた口調に、
高耶はギッと瞳を上げた。
「そうなんです。私が付いていながら、風邪をひかせてしまって…」
すかさず直江が口を挟んだ。

パーカーを着ているのは、もちろん直江のせいだ。
だが、高耶以外にも砂浜にいる生徒も大勢居る。
何よりこの臨海学校は、泳ぐことより海に親しむという意味合いが強く、
無理に泳がなくてもよいという規定になっていた。
それなのに、こうして高耶だけを目の敵にするような体育教師のやり方は、
たとえ高耶の体に何もなくても、納得できるものではなかった。

「直江先生は黙っていて下さい!
こんな奴は、甘い顔をするとつけ上がるんです。
ろくに泳げもしないのに、あんな島なんぞに行くから悪いんだ。
たった一晩で風邪をひくとは、弱ッちぃなぁ、仰木」

もう我慢の限界だった。
あんたはそれでも教育者か!
と言おうとした直江は、高耶の行動に目を瞠った。

「うっせぇな。泳げば文句ないんだろ?
 競争しようぜ、センセー。
 どこまで泳げるか、先に沈んだほうが負けってことで。」

あっさりとパーカーを脱いで、高耶はまっすぐ体育教師の前に立った。
綺麗に日焼けした伸びやかな肢体に、赤い痣が消えずに残っている。
思わず絶句した直江と千秋の目の前で、
高耶は何も隠そうとせず、挑発するように体育教師を睨みつけた。

「うっわ〜。やっぱ島の虫って飢えてんだなぁ。
 すっげ咬まれてやんの。」
半分感心している矢崎の声に、体育教師はハッとした顔でブルッと頭を振った。

「冗談じゃない。沈むまでの競争なんかできるか。
 馬鹿らしい。泳げるなら勝手に泳げ。」

「冗談じゃないのはこっちだぜ。あれだけ言って逃げんのか?
 俺みたいな弱ッちぃのに勝つ自信ぐらいあるんだろ?」

だがそれでも、体育教師は泳ごうとしなかった。
高耶はフンと鼻を鳴らすと、海に向かって歩き出した。

「あんな奴相手に、何ムキになってんだか。」
千秋が横から、ひょいと高耶の顔を覗き込む。
「うっせぇ。そんなんじゃねえよ。」
高耶は不機嫌そうに前を睨んだままだ。
首を竦めて、千秋も目の前に広がる海と空を眺めた。

「パーカー暑かったか?」
海を見回しながら、ついでのように言った千秋に、
高耶はちょっと目を大きくして、
「あったりまえだろ。夏なんだから。」
そういうと、ふっと後ろを振り返った。

俺の為に嘘なんかつくな。
我慢は…したほうがいいかもしんねえな…

クスッと笑って、高耶は海に入って泳ぎだした。
体を包み込む水は、昨日の腕のように優しかった。

    9月17日

書いた日付からすると、こっちの方が1より前だったんですね〜
でもお話の時間軸から言うと、やっぱこっちが2なんだよね…
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そのせいで、間違ってログを取らずに消しちゃった!!ってこともあるんだけど、
いちいちワードを立ち上げるより楽なので、最近は主に拍手で書いてます。
拍手はUPが楽なのだ〜♪ ありがとう、拍手サイトさま(^^)

   

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