『熱波こぼれ話−3』

「っくしゅん」
ズズッと鼻を啜りながら、冷たくなった腕を擦った。
さっきまであんなに良い天気だったのに、
いつのまにか陽が翳って、肌に当たる風が妙に冷たい。
(やべぇ…マジで風邪ひくかも…)
高耶はブルッと身震いをすると、浜に上がってパーカーを羽織った。

千秋が何か言いたそうな顔で、こっちを見ている。
あいつは、きっと気付いている。
俺と直江のことを…
それを思うと、顔から火が出そうな気分になる。
でも…

恥ずかしいのと恥じるのは違う。
俺は、俺たちは、恥じることなんかしてない。
知られたってかまわないと、本気で思った。
それでも…

言えないんじゃなくて、言いたくない。
口にしたくないほど大事なもの。
この想いは、言葉になんて換えられない。

千秋が気付いているのなら、
知らないふりをするのも、させるのも、嘘をつくのもしたくない。
だったらどうすればいいのか…

立ち尽くす高耶に、千秋は笑いながら話しかけた。

「やっぱ着たか。…って、もしかして寒いのか?」
「まあな、ちょっと潜り過ぎたみたいだ。」
俯きかげんに笑った高耶は、チラリと千秋の顔を見ると、目が合う前に視線を外した。
らしくない表情に、内心の動揺が見えるようで、千秋はフゥと小さく息を吐いた。

「ったく。無茶な奴だぜ。あんなのなぁ、経験者が見りゃバレバレだっての。」
耳元に唇を寄せて千秋が放った直球に、高耶は息を止めて目を瞠った。
予想はしていても、まさかここまで言われるとは思っていなかった高耶だ。
「けッ経験…げほっゴホン」
吸い込んだ息が、喉に絡んで喋れない。

千秋は高耶の背中を軽くさすってやりながら、
「慌てんなって。…大丈夫だよ。遠くからじゃわかんねえから。
 こんなにおまえの近くに来れる奴なんて、そうないだろ?」
困った奴だと言いたげな顔で、肩を竦めて笑った。

そんなことを気にしてるんじゃない。
そう言いたいのに、咳がなかなか止まらない。
ようやく息が整って、やっと出た言葉は、
「経験あるのか?」
だけだった。

プッと吹き出した千秋が、可笑しそうに笑いながら、
「あるさ。てめえや矢崎よりゃずうっとな。」
そう言うと、ふいに真面目な眼差しで高耶を見つめた。

「だから。ナンも言わなくても、てめぇのことぐらいお見通しなんだよ。」
偉そうな言葉とは裏腹に、瞳がとても柔らかくて、
だからそれだけで、千秋の言いたいことがわかる気がした。

「ばぁか。んな簡単に見通されてたまるか。」
悪態を吐きながら、高耶は笑った。

海の風が、傍らをスッと流れていく。
流れる雲のゆくえは、誰に定められることもなく、
知られることもないままに、夏の空をただ緩やかに動いていた。

         9月28日

本当は他にも拍手でUPしたのはあるんだけど、
全部ログに残すのもなあ…と思ったので、今回はこれだけにしました(^^)
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