『かざぐるま』

  

くるくる
くるくる
かざぐるまがまわる
刻々と色を変えて揺れる心のように

「直江…?」
何も言わずに切れた電話が、なぜか直江からのような気がして、高耶は小さくつぶやいた。
どうしたのだろう。何かあったのだろうか。
電話の向うに緊迫した気配は感じられなかった。
ただ、数瞬の沈黙とためらうような息遣いが、高耶を不安にさせていた。
トゥルルルル…
「直江!」
即座に呼びかけた。
「はぁ?…ったくいきなり直江はないだろうが。ちゃんと声聴いてから言えっての。」
張り詰めた気持ちが一気に緩んで、高耶は溜息を洩らした。
「千秋か。どうした?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。景虎、直江からなんも聞いてねえのか?」
瞬間、胸の奥からじわりと、わけのわからない焦燥感が生まれた。

なんだってんだ。
あいつと毎日一緒にいるわけじゃない。
連絡がないときだってあるに決まってる。
なのに、聞いてないのが不思議って言い方されっと気になるじゃねえか!

「いいから。さっさと言えよ。」
自然とキツイ口調になる。
とたんに千秋が言葉を濁した。
「あ…いや。聞いてないなら…いいんだ。また連絡すっから…。」
プチッ・ツー・ツー・ツー
切れてしまった電話を耳に当てたまま、高耶は憮然と前を見つめた。
言いたいけれど言えない。そんな千秋らしくない歯切れの悪さが気になった。
俺の知らないところで何かが起きている。
あの無言電話は、やはり直江からに違いない。

 どうして今、おまえはここにいないんだ。
 顔さえ見れば安心できるのに。
 せめて声だけでも…。
 いや、今すぐここに来い!

無茶なわがままを言い出す自分に呆れてしまう。
たった一本の電話でこんなにも不安になる。この弱さはなんだ。
ぎゅっと唇を噛みしめながら電話を置くと、高耶は机の上にあった風車を手に取った。
赤と黄色のセルロイドで作ったかざぐるまは、美弥が小さい頃に作ってやったものだった。
「懐かしいものが出てきたよ。お兄ちゃんが作ってくれたんだよね。」
嬉しそうにふうっと息を吹きかけて、くるくる廻して喜んでいた昨日の美弥を思い出して、高耶は視線を和らげた。
息を吹きかけると、かざぐるまは勢い良く廻った。
光るような黄色からオレンジ、赤。回転速度が変わるにつれて色も変わる。
やがて止まってしまうまで、ぼうっと眺めてから、もう一回廻した。
そしてもう一度。もういちど。
黄色と赤の狭間で複雑に揺れる色は、まわすごとに微妙に変わる気がした。
思いもまた、廻る毎に色を変えるものなのかもしれない。
ほんの少しの時間だけれど、さっきと今とでは同じようでいて同じではない。
机にかざぐるまを戻すと、高耶は意を決して表に出た。
焼けつくような7月の太陽が肌を刺す。

 おまえが来ないなら俺が行く。
 このまま黙って待つなんて性に合わない。
 この気持ちは会わなければおさまらない。
 おまえに会えばきっと…。

もやもやと胸の中にわだかまる思いを、抱えたままでいたくなかった。
それでいて直江に自分から連絡をとるのは嫌なのだ。
言いたくないなら言わなくていい。
それがおまえの意思なら、俺は俺の意思で辿り着いてやる。
おまえの真意に。
「待ってろよ直江。」
憤然と前を見据えて呟いて、高耶は千秋の部屋に向って走り出した。

 

高耶さんのお誕生日企画U&5000hitのキリリクを兼ねてます〜
ちよりんさんから頂いたお題(やきもきするお話)を目指してますが・・どうなるやら(^^;
お誕生日までには完結するはず。しばらくおつきあいくださいませ〜♪

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