光のかけら−8

最大級の賛辞ではないだろうか。
演技者としてこれほど嬉しいことはないはずだった。
あのときの高耶の問いに、自分の演技で答えを出そうとしてきた。
上っ面をなぞるのではなく、白井の真実を掴まなければ、答えは出せない。
そうして自分が感じた白井を、高耶は尊敬できると言ったのだ。
直江の白井なら信じられる、と。

ドラマの中に本物の人間を描き出す・・自分にはなぜ出来ないのかと絶望して苦しんで、
それでも憧れてやまなかったことに、やっと近づいたと言ってもいいだろう。
なのに今、直江の胸にあるのは、喜びでも満足感でもなかった。
今、はっきりと自覚してしまった。
自分が望んでいたのは、演技者として認められることでも、白井の真実を見せることでもなく、
ただ高耶に自分を見て欲しかっただけだったのだと。

彼の真摯な思いに応えたいと願ったのは、それが唯一彼の近くにいる方法だったからだ。
あのとき見せてくれた彼の心を、繋ぎとめたかっただけだったのだ。
高耶の無垢な信頼が胸に痛い。
俺はそんな綺麗な瞳で見つめてもらえるような人間じゃない。
「直江?」
心配そうな声に、はっとして顔をあげた。

「俺・・またお前に悪いこと言っちまったのかな。」
「違います!」
間髪をいれずに否定した直江の勢いに、驚いて目を丸くしていた高耶がぷっと吹き出した。
「お前でもそんな顔するんだな。」
「…そんなおかしい顔してますか?」
ますます面白そうに笑いながら、
「ごめん。お前いつも物分かり良さそうな顔してっから…。焦った顔なんて初めてで…。」
途切れ途切れに言う高耶をしばらく眺めて、やがて直江は諦めたようにひとつ溜息をついた。

 

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