光のかけら−7

 綾子を先頭に、千秋と色部、高耶、直江そしてスタッフの面々が、ぞろぞろと店に入った。
ここは綾子の行きつけの居酒屋だ。
高い天井に大きな梁。囲炉裏を備えたカウンター席と掘りごたつ式のテーブル席がある。
そう大きくない店内は、ほとんど貸し切り状態になってしまった。
ところどころに一輪挿しの野花がさりげなく置かれ、本物の備長炭を使った料理は
香ばしい匂いで食欲を掻き立てる。
 店全体にどこか心が和むような温もりがあって、大勢でわいわい騒いでいる同じ店内で、
ひとり黙って酒を飲んでいても、違和感なくいられそうな懐の広さがあった。

「へえぇ、いい店じゃねえか。お前にしちゃ上出来だな。」
千秋もすっかり気に入ったようだ。
「さあさあ、ぐっと空けて。」
さっそく日本酒を色部についだ綾子は、御返杯を待っているらしい。
にっこり微笑んで差し出したのは、おちょこではなくグラスだ。
嬉しそうに呑む姿を少し離れた席から眺めて、
「あいつ、本っ当に酒好きだよな。」
「ええ、あの調子だとまた酔いつぶれそうですね。」
高耶と直江は顔を見合わせて笑った。

「一緒に呑むのは初めてですね。あなたは…いい飲みっぷりだ。」
ぐっと杯を空けた高耶に、直江が微笑みながら酒をついだ。
「お前こそ強いんだろ? 飲んでも全然顔に出てない。」
それにしても、酒を呑む姿がキマッテいる。
杯を口に運ぶ仕草に思わず見とれてしまった。
「どうしました?」
問いかける声に、とくんと心臓が鳴った。

「なんでもない。」
そう言って目をそらした高耶の横顔を、直江はときめきを無理やり抑え込みながら見ていた。
気を抜くと溜息が洩れそうだ。
できることならずっと見つめていたい。その手に触れたい。
側にいるほどに思いは高まってゆく。
けれど、それを告げることはできなかった。

思いを瞳にだけ残して見つめていた直江は、高耶の首から覗く銀の鎖に目を止めた。
「それは昨夜のペンダントですか?」
振り向いた高耶が、鎖を引っ張り出して見せると、小さな十字架がきらりと光った。
「ああ。小道具だから俺が持ってちゃいけないんだけどな。なんか手放せなくて・・。」
そう言うと、ペンダントをじっと眺めたまま、ぽつりと言った。
「直江。お前の白井…。ちょっとだけ洋二の気持ちがわかる気がする。」
「え?」
「なんか、さ。その…そんけーしちまうっていうの?」
照れくさそうに俯いたまま笑って、
「前は全然わからなかったんだ。今もわかっちゃいない。
 けど、苦しくても逃げないとこが凄えなって思ってさ。」
顔を上げると、澄んだ瞳を直江に向けた。
「不思議だよな。お前の白井なら、光への気持ちも嘘じゃない気がするんだ。」

 

 

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