光のかけら−6

凍りついたように立ち尽くす白井と、俯く洋二。洋平と光のアップが映し出される。
明るい日差しの入る窓を遠景に、病室の全景を撮りながらカメラが退いていった。
「カット!」
千秋の声がした後も、しばらく誰も動けなかった。
「お疲れサン。今日はここまでだ。」
ほ〜っと溜息が洩れて、やっとみんなが動きはじめる。
洋平役の色部勝長が、直江の側にやってきた。

「凄かったな。君の演技に惹き込まれたおかげで、
 私までいつも以上に集中できたよ。」
ひとなつこい笑顔が、人柄を感じさせる。直江は以前から色部を尊敬していた。
「そんな・・。ただぼうっと立っているしかできなくて・・。」
演技だなんて言えないと、直江は本気で思っていた。
突き上げてくる思いの強さに、他にどうすることもできなかった。
それでも、これが直江の感じた白井だったのだ。
「君の表情が、白井の心を雄弁に語っていた。私は素晴らしいと思ったよ。」
心のこもった言葉だった。
胸がいっぱいになって、直江は黙って頭を下げた。

「あらあ、直江ったら神妙な顔しちゃって〜。なんの話してんの?」
綾子が高耶と一緒にやってくると、ふたりの顔を覗き込んだ。
さっきまでの光とはあきらかに別人だ。一気に場が明るくなった。
「ねえねえ、このあとみんなで飲みに行くんだけど、
 色部さんも直江も一緒に行こうよ〜。」
綾子の酒好きは有名だ。
色部も千秋もけっこうイケルのだが、高耶はどうなのだろう?

「高耶さんも一緒ですか?」
思わず聞くと、綾子がにんまり笑った。
「もちろんよぉ。あ、この子あたしのだから。
 直江、手ぇ出しちゃダメだからね!」
「な、なに言ってんだ。勝手に決めんなよ!」
高耶が大慌てで否定する。
「俺は誰のものでもないんだからな!」
なぜか直江に向って弁解している自分に気付いて、赤くなって横を向いた。
直江の顔がまともに見れない。
何やってんだ、俺は? どうかしてる。
高耶はぎゅっと目を瞑った。

 

続きを見る

小説に戻る

TOPに戻る