光のかけら−52

引退会見の会場は、黄色い歓声や驚きの声が飛び交い、ものすごい騒ぎになっていた。
幸いにも一旦会見が終了したところでテレビは中継を終わっていて、カメラも廻っていなかったことから、氏照は直江が後日会見を開くからと報道陣を宥めて帰らせた。
「引退しても、私はずっと君を弟のように思っているから、いつでも連絡しておいで。」
氏照の言葉に頷いて、直江の車に乗ってからも、高耶は何度も振り返って手を振った。

どこに行くかと聞きかけて、直江は返事を聞かずに笑って自分の家に向かった。
あなたと一緒にいたい。
それだけが俺の望み。
そしてあなたも、それを望んでいる。
ならば行く先はどこだっていい。ふたりが一緒にいられるところなら…

高耶の携帯に、千秋から電話が入った。
「引退だあ?てめえ許さねえ!俺の夢をどうしてくれんだよ!」
いつものようにふざけた口調でしゃべりながら、声が震えてかすれている。
胸が痛んで、高耶の声も震えていた。
「千秋…悪かったな。ホントごめん。俺でよければ必要になったら呼んでくれ。
おまえが呼ぶなら俺は必ず行く。約束するから…」
「わかった。約束だからな、忘れんなよ。おまえ、直江と一緒なんだろ? 良かったな。」
また連絡する。と言って千秋は電話を切った。

やがて「光のかけら」は、全ての収録を終えてクランクアップした。
打ち上げは例の居酒屋で行われ、高耶も来て大いに盛り上がった。
引退会見と、その後の直江の会見は、視聴者にとても好意的に受け入れられ、
特に直江は会見で失神する女性が出たほどの人気で、新しいジャンルの仕事も増えていた。

でもそれは、やはりこの「光のかけら」のドラマが、大きな反響を呼んだからと言えよう。
数々の名場面が生まれ、このドラマは伝説となった。
ラストシーンで、鎖の縺れをといた白井が光にペンダントをかけたとき、光が涙を流して微笑む。
そして白井の手を自分の手で包みこんで「ありがとう」というのだが、これを見ながら多くの人々が、光や白井と一緒に涙を流した。
ドラマでは、この先の出来事を追っていない。
ただエンディングロールで、光と洋平が微笑みながら手を繋いで病院の庭を歩くシーン、
同じく病院の庭で、木に引っ掛かった紙飛行機を取ってやる白井と洋二のシーンなどが、
その後の彼らを物語っているようで、ドラマが終わってもDVDやビデオで何度も繰り返し見られていた。

「なあ。いい出来だろ?これは俺たちが作り上げたんだぜ。」
千秋は電話で高耶と話しながら、様々なシーンを思い出していた。
ひとつひとつに、いろんな想いが詰まっている。
そのひとつずつが、光のかけらみたいだと、千秋は思った。
きらきらと光って胸を熱くする。

「また作ろうぜ。いつかまた。俺たちの新しい光のかけらを。
引退したって、また復活すりゃいいじゃねえか。ハハハ。おまえには愛は語らせねえよ。
どうせ照れて何にも言えないんだろ? いいんだよ、それでも。」
夢中になれるものが、きっとそこにある。

光のかけらを集めて、新しい虹をつくろう
君は光
優しく 暖かく 輝き続ける光

                    2005年2月11日

 

小説に戻る

TOPに戻る