光のかけら−4

「明日は病院のロケですね。」
「ああ。」
撮影が終わって皆が帰ろうとする中、直江は隅の椅子に座ったままの高耶を見つけて声をかけた。
あれからずっと、休憩中などにほんの少し会話する程度で、ゆっくり話をする暇 もなかった。
素の彼が見たかった。声を聴きたかった。
なのに高耶は一瞬顔をあげただけで、またじっと下を向いて何かをしている。
「なにをしてるんです?」
ひょいと覗き込むと、高耶が慌てて手を引っ込めた。
「?」
隠されるとよけいに見たくなる。
思わず手に触れた。

ドクン、と心臓が跳ねた。
指の先から伝わる感触に、神経が勝手に集中してしまう。
直江はそのまま高耶の手を包み込んだ。
大丈夫。気付かれるはずがない。男同志の単なる共演者に過ぎないのだから。
胸の鼓動を隠して、直江は高耶の手を引き寄せた。
「あ、やめ・・」
慌てる高耶にかまわず指を開かせた。
そしてそこにあったものを見て、一瞬ぽかんとしてしまった。

「どうしてこんな?」
それは小道具のペンダントだった。
たぶん鎖の継ぎ目がはずれてしまったのだろう。
シンプルな十字架のトップと一緒に、細い鎖が丸まっていた。
「これを直そうとしてたんですか?」
高耶が俯いたまま、こくんと頷いた。
どこをどうしたらこんなに縺れるのかと思うくらい、見事にこんがらがっている。

くすくす笑い出した直江に、高耶は真っ赤になって顔を背けるとぎゅっと手を閉じた。
「笑ったりしてすみません。あなたが懸命に直そうとしている姿をつい想像して…。」
むっと睨んだ高耶に、にっこり微笑みかけると、
「貸してもらえませんか? 縺れを解くのは好きなんです。」
不信感たっぷりに見上げた高耶の手から鎖をとりあげると、直江は隣に腰掛けて楽しそうに縺れきった鎖を解き始めた。
しばらくすると、少しずつ鎖がほぐれてきた。

「器用なんだな。」
高耶が感心して言った。素直に口をついて出てきた言葉だった。
「言ったでしょう? 好きなんですよ。」
(好き)
その言葉は特別な意味を持っている。
心の中に芽生えたこの思いは、その言葉になるのかもしれない。
縺れをときながら、心はずっと彼を見ていた。
小さな動き。声のトーン。息遣い。言葉の発し方にまで彼を感じる。
今、息が触れるほど近くに彼がいる。
ただそれだけのことが、こんなに嬉しいなんて。

「はい、解けましたよ。」
にっこり微笑んでペンダントを渡した。
「・・ありがとう。」
俯いて、もごもご言う。
いつもはあんなに強い光を放つ眼差しで人を射るのに、今はシャイな子供のようだ。
その落差がたまらなく愛しい。
抱きしめてしまいたい衝動を、直江はすんでのところで抑えていた。

 

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