光のかけら−27

「どうしてこんなトコにいるの? うち、カギ変えてないよ?」
なんで家に入らないかなあ。と呟くと、
「先週もドラマに出てたのに、どうしてこんなことになったのか知らないけど、
ヤクザさんになっても、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん。
お兄ちゃんが早く足を洗えるように、美弥も協力するから!」
グッと拳を固めて、美弥は真剣な顔で高耶を見上げた。

「ばっ…ばかっ! 俺がヤクザなんかになるわけねえだろ! 
これは俺達が目立たないように、直江が考えた格好してるだけで…。
だいたいお前、アシを洗うってなんだよ。ったく時代劇の見過ぎだぞ。」
赤くなって大慌てで説明すると、
「え〜?そんなことないよぉ。ごくせんでも言ってたもん。」
美弥がぷうっとふくれた。

突っ込むところはソコじゃないだろう?
脱力して横を向いたとたん、くくっと肩を震わせている直江が目に入った。
「直江ぇ。お前まで笑ってんじゃねえ!」
やっぱこんな格好した俺がバカだった。
恨めしげに睨む高耶に、直江は「すみません」と言いながら、必死に笑いを噛み殺した。

「直江って…。あ〜っ!この人、直江信綱?! 本物だぁ。 かっこいい〜!!」
「美弥。指差すのはやめなさいっ。こら、騒いじゃだめだって!」
大声を出さないように、高耶の手で口を抑えられながら、きゃあきゃあ喜んでいる美弥は、
会えずにいた時間も距離も、飛び越えたように見える。

それが美弥の思いやりだとわかるから、そうやって受け入れてくれているのだとわかるから、
高耶は一緒になって笑いながら感謝していた。
美弥の優しさに。
直江のまごころに。

踏み出さなければ、この喜びはなかった。
俺一人では、来れなかった。
おまえとじゃなければ、来なかった…。

高耶の怖れを一瞬で吹き飛ばした少女の笑顔を、直江は眩しそうに見つめた。
自分が出来るのは、ここまでだ。
あとは兄妹ふたりだけで、ゆっくりと時間を過ごせばいい。
車に戻ろうとした直江の手を、高耶の指がそっと掴んだ。

(行くな、直江。行かないでくれ)
声が聞こえた気がした。
指先から思いが流れてくる。
目を閉じて小さな息を漏らすと、直江は高耶の手をしっかりと握り返した。

「ね、うちに入ろ。直江さんも。狭いトコですけど…」
恥ずかしそうに頭を下げて、美弥が嬉しそうに高耶の手を引いた。
つられて直江も引っ張られる。
女子高生に手を引かれるヤクザ達という奇妙な3人連れは、
周囲の視線を集めながら、団地の階段を登っていった。

 

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