光のかけら−21

マンションに帰って、高耶は首から外した銀のペンダントを手にとってじっと見つめた。
撮影の小道具を持ち帰るなんて、許される事ではない。わかっていて手放せなかった。
けれど。これから撮影するシーンに、このペンダントは欠かせない重要なカギになる。
明日には返さなければ…。
そう思いながら、もう何日もそのままになっている。

高耶は、十字架をギュッと握り締めて、胸に押し当てた。
「直江…」
いつのまにか、これに触れるたびに、直江を思い出すようになってしまった。
いや。直江を思うたびに、この十字架に触れているのか。

あの日…この部屋に直江が来た日から、高耶は何度もこの十字架を握り締めていた。
求めない。おまえに何も求めない。
そう呪文のように繰り返すのは、本当は心の底で知っているからだ。

傍にいて欲しい。
ずっと傍にいて…。どこにも行かないで…。

そう望んでしまう自分を、高耶は怖れていた。

誰にも何も期待しない。そうすれば、捨てられたと思うこともない。
誰をも何をも恨まずにいられる。世の中そんなものだと思っていられる。…はずだった。

それなのに、あいつを求める気持ちが抑えられない。
あのまなざしが、温もりが、消えないどころか侵食してくる。

いつか離れてしまうのに…。

撮影が終わったら、疎遠になるに決まっている。
その日は近い。
それなのに、俺は…。

高耶は、ペンダントをチェストの上に置くと、ベッドに入った。
布団をかぶって目を閉じる。
もぞもぞ何度も寝返りを繰り返した後、溜息をつくと、起き上がってチェストの前に立った。
しばらくそのまま立っていたが、やがて諦めたように手を伸ばすと、ペンダントをもう一度首に掛け、布団に潜り込んだ。

そっと十字架に触れる。
ひんやりとした感触が心地いい。
優しくて熱いあのまなざしを、なぜこのペンダントで思い出すのだろう。

明日までだ。明日の撮影が終わってから返そう。
そう自分に言い聞かせながら、十字架に手を置いて静かに目を閉じた。
瞬く間に、スウスウと寝息をたてはじめた高耶の顔には、あどけない笑みが浮かんでいた。

 

 

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