光のかけら−20

ドラマの撮影は順調に進み、クライマックスへと向かっていた。
あれから毎日のように病院に通い続ける白井だが、光の病状は良くならない。
それでもこうして通い続けるうちに、光は少しずつ白井の存在に慣れてきたらしく、以前のように怯えて震えることはなくなっていた。
手に触れても嫌がらずにいてくれる。
たったそれだけのことで、嬉しくてたまらなくなる。

その一方で、白井は洋平の心を思った。
病気になった光を、ずっと支え続けている洋平。
初めてここに来た時、パニックになった光を落ち着かせたのは洋平だった。
目の前の光景に、ふたりの絆を思い知らされた気がした。
洋平に宥められて、少しずつ呼吸を整えていく姿は、光にとって自分はいないほうがいい人間なのだと、実感するのに充分すぎるほどだった。

なのに会いに来てしまう。
洋平の愛情の深さを知った今、自分に出来ることなど、何も無いとわかっているのに…。

「どうしてここまでするんです? もういい。あなただって苦しんだんだ。
あなたは自分の人生を、もっと大切にして下さい。」
愛してくれる女性まで振り切って病院に通う白井を、洋二は心配して追いかける。
すると彼は困ったように微笑んで、
「そうだね。そうかもしれない。でも私はここに来てしまうんだ。本当に、なぜだろうね。」
自分でもわからないんだ。と告げると、まっすぐ顔をあげて病院の坂を登っていく。
その表情は、迷いも無く穏やかに澄んでいた。

 
なぜそこまでするのか。
その答えを、直江は知っていた。
あの人と出会うまでの自分なら、頭でしか理解できなかっただろう。
けれど今は、白井の心が痛いほどわかる。

どうしようもないとわかっていても、それでも会いたい。
見ていることしか出来なくても、ただあの人の近くにいたい。
辛さも悲しみも抱えたままで、全てを超えてしまうほど強い欲求。
損得で測れない、止める事すらできない想い。

償いでも、許されたいからでもなく、まして愛されたいからでもない。
そうせずにいられないのだ。
逢いたくて…傍にいたくて…。
(自分は求められていない)
その事実が、容赦無く胸をえぐる。
それでも。あの人の傍にいるとき、俺は確かに幸せなのだ。

眠れないまま、直江は暗闇をじっと見据えた。
ドラマの撮影は、終わりに近づいている。

幸福な時間の終わりが、すぐそこに迫ってきていた。

 

 

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