光のかけら−12

直江はもう気持ちを切り替えたんだ。と思ったとき、ほっと安心すると同時に意外なほど胸が痛んで、高耶は無意識に十字架のペンダントを握り締めた。
銀の冷たさが、氷の刃のように手に刺さった。

俺を好きだと言った直江。
その言葉を取り消させることで、無理にでも忘れてしまおうとした。
そうすれば求めずにいられると思った。
なのにそのあとで俺を見つめた直江の瞳は、今まで見たこともないくらい優しかった。
俺の身勝手な思いまで、全部まるごと包んでくれている気がした。
もう…忘れられない。なかったことになんてできない。
きっと俺は求めてしまうだろう。この温もりを。直江を。
それでもこの選択しかない。
直江の思いが冷める日は、いつか必ず来るのだから。
だから俺は、今の温もりだけをしっかりと抱えていよう。
それ以上を期待してはいけない。
俺はおまえに何も求めない。これ以上…求めない。

誓うように握り締めたペンダントを、Tシャツの中にしまって、
「んな子供扱いすんじゃねぇよ。」
ぐいっと酒を煽った。
「おおっ!なかなかイケルじゃないの〜。ささ、もっと飲んで。」
綾子が飛んできて酒を注ぐ。
「大丈夫ですか? あんまり一気に飲まない方が…。」
「いーの、いーの。飲みたいときが飲み時って言うじゃない。」
「言わねえっ…てかそれじゃ姉さん、いつも飲みどきってことに…。
」 「あははは。ま、なんでもいいから飲も飲も。」
注いで注がれて、ケラケラ笑いながら飲む二人を眺めて、
「おいおい、いいかげんにしねえと明日仕事になんねえぞ。」
千秋が呆れたように声をかけた。

「へ? 明日はオフのはずでしょ?」
「だあれがンなこと言ったよ。」
「ええ〜っ。それじゃ早く帰って寝なくちゃ!」
慌てて帰り仕度をすると、
「じゃ、また明日ね。」
と高耶の頬に軽くキスして立ち上がった。
瞬間、直江が硬直した。
綾子は何も気付かず、直江達にも同じようにキスをすると、にこやかに去った。
しばらくそのまま息もできずにいた直江は、ポンと色部に肩を叩かれてやっと我に返った。
「さて、じゃあ我々も帰ろうか。悪いが彼を送ってやってくれないかな。」
「あぁはい、そうですね、そろそろ帰らないと。」
そう言って見上げた直江の視線を、色部は笑いながら指で促がした。

見ると高耶がカウンターに肘をついて、半分眠りかけている。
こっくりしかけてハッと目を開けるとパチパチ瞬きしながらこちらを向いた。
「大丈夫ですか。私が送っていきますから。」
「ん…。や、俺ちゃんと一人で帰れる。」
手を振って断わろうとするのを遮り、直江は高耶の腕を抱え上げた。

 

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