光のかけら−11

「なあ、お前達もそう思うだろ?」
いきなり話を振られて、ふたりは同時に顔を向けた。
千秋と色部がこっちを見て笑っている。
「なんの話でしょうか。」
「なんの話だ?」
同時に言って思わず顔を見合わせた。

一瞬流れかけた気まずい空気を消すように笑ったのも、ふたり同時だった。
あまりの偶然に、ふっと本物の笑顔が生まれた。
同じ思いでいるのだと感じた。今の関係を無くしたくないのだと。
身構えて硬くなっていた気持ちが和らいでいく。

「このドラマのことさ。なんかやってて楽しいと思わねえか?
なんっつうか・・これがやりたかったんだ!ってワクワクしてくんだよな。」
千秋が言うと、色部もうんうんと頷いて、
「主役のふたりは好きなようにアドリブ入れ放題で、しかも次に何が起こるかわからないときてる。 監督には振りまわされ、綾子くんには泣かされ・・。素晴らしくやりがいのあるドラマだよ。いいねえ、こういうドラマ。」
そう言ってにっこり楽しそうに笑った。

直江も高耶も、目をぱちくりさせて色部を見た。
「あんたってそういうキャラだったのか?」
ふたりとも、彼がこんなジョークを言うなんて、思ってもみなかったのだ。
「君は私をどんな人間だと思っていたのかな?」
色部は高耶に暖かい視線を向けた。
彼のことは(真面目で人が好くて心の広いよくできた人)と思っていた。
けれど、改めてよく考えれば、それはほんのうわべでしかない。
本当の姿など、なにひとつ知らなかった。

ふと隣を見ると、直江も似たような気分でいるらしい。
「やっぱこうやって話してみないと、わかんねえもんだろ?」
千秋が笑った。
そういえばこいつとも、今みたいなつきあいになるなんて、思いもしなかった。
話すたびに違う一面を知る。人間とは本当に奥深いものだ。

「君の事も、もっと知りたいと思っているよ。知れば知るほど面白い。」
「あ、それ言えてる。ねえ、直江だってそう思うよね?」
「からかうのも面白れぇからな。」
口々に言う三人に、
「てめえら、人をおもちゃみたいに言うなっ!」
高耶は助けを求めるように直江を見た。

が、次の瞬間、はっとして困ったように目をそらした。
求めさせるなと言っておきながら、もう自分はこんなに求めている。
何をやっているんだ、俺は…。
直江の気持ちを突っぱねたくせに、なんて身勝手なんだ。

苦しげな高耶を一瞬だけ労わるように見つめると、
「そんなにからかっちゃいけませんよ。まだ子供なんですから。」
直江が涼しい顔で言った。
高耶は驚いて直江を見つめた。
まるでさっきのことなど忘れたように、直江は明るく笑った。

 

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