『ヒートアップ! 第2戦』−5


一蔵は、コートの端にしゃがんで、じっと地面についた自分の手を見ていた。
あわせる顔がない…。約束したのに、オレは守れなかった。
顔を見ていればわかる。旦那がどんなに御主人のことを思っているか。
どんなに一緒に試合に出たかったか…。

オレが御主人の分まで動いてやる。この足で点数をかせいで、すぐにカタをつけてやる。
そう思っていたのに。甘かった。守るどころか、無理をさせた。
オレがマークされてから、あん人はオレが動けるように、ずっと細かく動いてくれてた。
あんな大口叩いて、オレは何をやってた? 苦い涙がぽつりと一粒、コンクリートに落ちた。

「一蔵!」
直江の声に、一蔵はビクンと体を起こした。
顔を向けられず、俯いたまま固まってしまった一蔵に、
「俺はここで見ている。おまえの力を見せてみろ。」
これで終りじゃないだろう。と直江の声は言っていた。

いつもの旦那だ。
御主人さまのことしか考えてなくて。いつも無茶ばっかり言う。あの口調だ。
「旦那…。」
そっと顔を上げてみた。
最前列に座った直江は、言葉通り厳しいまなざしで一蔵を見ていた。

(ここで潰れたら許さない。あの人の思いを無駄にするな。)
その瞳を見つめて、一蔵は胸が熱くなった。
相変わらず、御主人さまでいっぱいなんだよな、旦那って人はさ。
そういう旦那だから、オレは…。
笑みを浮かべて立ちあがると、一蔵はグッと親指を立てて直江に示した。
守るべき人を自らの腕に抱いた直江は、どこか幸せそうに見えた。

心をひとつにした卯太郎たちは、寧波たちにひけをとらないチームワークで善戦した。
「どけえええ。」
「誰が退くかぁ!」
小源太と睨み合う卯太郎は、体の大きさで負けていても、気持ちでは負けていなかった。
けれど、どんなに気迫があっても、それだけで勝てるほどバスケは甘くない。
寧波たちの強さは、力だけではなかった。
スピード、体力、コントロール。どれをとっても一枚上手をいく彼らから、なんとか1点をもぎとったものの、ついに最後の1点はとれなかった。

「なんとか勝てたな…。」
息を切らし、汗でびっしょりになった体で、コートの真ん中に転がった小源太が呟いた。
「やるじゃねえか、あいつら。」
嬉しそうに笑う小源太の腹をポンと叩いて、
「あんたもね。」
と寧波がニッと笑った。
青月も笑いながら、寧波と小源太の隣に座りこんだ。

もうこのまま一歩も動きたくないくらい、体は疲れてヘトヘトだった。
なのに、なんだか楽しくて笑えてくる。
勝ったからじゃない。苦しいけれど楽しい試合だった。
「熱くなるのもいいもんだ。」
始めは高耶と戦ってみたかっただけだった。でも今はもうそれだけじゃない。
直江の腕に包まれて横たわる高耶と、その前にいる3人に目をやった。
「ホントにいい男だよ、あんたたち。」
微笑んだ寧波に、小源太と青月は顔を見合わせて楽しそうに笑った。

「すいません。負けてしもうた…。」
泣きじゃくりながら報告した卯太郎に、高耶は黙って頷いた。
「隊長…。」
申し訳なさそうに早田が俯いた。
「よく出てくれたな。おまえのおかげで、いい試合だった。」
ありがとう。と微笑んでから、高耶は頭を下げた。
「一蔵、卯太郎、早田。謝るのは俺だ。倒れちまって…悪かった。」
「謝らんで下さい! オレの力不足で無理させたんじゃ。」
一蔵が辛そうに俯くと、卯太郎も早田も、哀しそうに俯いてしまった。

「ばか! 顔をあげろ!」
コツンと3人の頭を叩いて、高耶が叱りつけた。
「おまえたち、最後まで頑張ったじゃねえか! 途中で抜けたのは俺だ。だから謝るのは俺なんだ。おまえらは胸を張っていいんだ!」
「けど…負けちまった。オレ達は…。」
高耶は黙って3人を見つめた。なんて言えばいい? 俺が何を言えるんだ。
慰めなんて言いたくない。そんなの言えない!

「何を言ってるんだ。お前達は何様だ? 相手が自分より強ければ、負けることだってある。
頑張りさえすれば勝てるなんて、思いあがるんじゃない。」
静かに、けれどピシッと言い放ったのは、直江だった。
「本当に勝ちたければ、もっと強くなればいい。負けたくないなら、ずっと諦めないことだ。
それしかないんだ。違うか?」
今まで何度も自分に言い聞かせてきた言葉だった。
直江の言葉は、それぞれの胸の奥深くまで、すうっと沁みていった。

おまえはずっとそう思ってきたのか。
直江。
俺に勝てないと思っていた長い年月、おまえはそう思ってきたのか?

おまえは強い。本当はおれよりもずっと強いんだ。
負けられなかった俺よりも。

目を閉じて直江の腕に体を預けた。
暖かい温もりに包まれて、ゆっくりと眠りに落ちていく。
目が覚めたら、今度はもう止めない。
おまえの思いも。俺の思いも。
迷うならもっと強くなればいい。もっと強く。信じればいい。

 

よくわからない終わり方になっちゃっいましたが・・(^^;
これで第2戦は終了です。こんなんで第3戦はあるのか??
はい。一応ある予定なのです。今度のメンバーは・・たぶん予想外の人物(笑)
掟破りを承知で、戦わせてみたい!あのお人が出てきます。
でもまあ、UPは、まだずっと先・・・かな(滝汗)

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