『ヒートアップ! 第2戦』−4


追いついた! ここからだ。あと3点!
着地した足がふらついた。
まだだ! たった2試合だ。こんな程度で音をあげてどうする!
ぐっと踏ん張って耐える高耶を、直江は厳しい表情で見つめていた。
「仰木さん!」
卯太郎の声にハッと顔を上げると、ボールが視界に飛び込んだ。
とっさに手をあげた瞬間、ふっと意識が揺らいだ。

(いけない。ここで倒れたら…。)
あんなに頑張ってるのに。せめて1点。あいつが一本決めるまで。
バシンと衝撃が来た。無意識のまま、体がボールを受けとめていたのだ。
歯を食いしばって一歩前に踏み出した。
どこだ。どこならパスが通る?
一蔵! 卯太郎! どこにいるんだ?

小源太の足が動いた。そこに僅かな隙間が生まれた。
誰もいない空間。だが高耶には、もう仲間の位置を確認する余裕はなかった。
取ってくれ。頼む!
高耶は、精一杯の力でバウンドパスを送った。
冷たい汗が気持ち悪い。息が苦しくて声が出ない。誰か…卯太郎…。
「卯太郎! 左だ! 左に飛べ!」
直江が叫んだ。その切迫した声の響きに、卯太郎は反射的に左に飛んだ。

その先に、いきなりボールが現れた。
「ちいぃっ!抜かれた!」
悔しげな小源太を残して、卯太郎は迷わずゴールに向かった。
体制を整えてシュートを放つ。
ボードに当たったボールは、ゴールの淵をぐるりと廻ってネットの中に吸い込まれた。

「やったあぁぁ! 入った! 入ったき!」
ガッツポーズを決めて、輝くような満面の笑顔で振り向いた卯太郎に、よかったな。と言いたかったが、微笑むのがやっとだった。
一蔵と右手をパシッと合わせて、喜びを分かち合う姿が見えた。
笑顔を浮かべたまま、高耶は意識を失った。

崩れるように倒れていく体を、いつのまにか傍に来ていた直江の腕が、ガシッと抱きとめた。
「タイム! タイムじゃ! ちょっと待っとうせ!」
大きな声で叫んで、中川が走り寄った。
手早く脈を測り、ざっと体調を確認すると、ホッと息をついた。
「心配いらんです。気ぃ失うちょるだけじゃ。さすがに2試合で3時間は堪えたんですろ。」

時間制限にすればよかった。
いつもの調子でルールを決めてしまったことを、今更ながらに後悔した。
1試合がこれほど長くなるとは、思ってもみなかった。
十点くらい、いつもならあっという間に勝負がついていたのだから。
高耶と戦う楽しさが、思いも寄らないほどの熱を生んだ。
本気を出せば、彼らはこんなに凄かったんだ。と、見ているだけでも体が熱くなった。
夢中になっていて気付くのが遅れた。
高耶だって人間だ。こんなに長く戦って、平気でいられるはずがなかったのに。

「私が出ましょう。選手交代だ。仰木さんを頼みます。」
高耶を抱き上げた直江にそう言うと、中川は心配そうにしている皆に、選手交代を告げた。
「なにいぃ。中川が出るぅ? 勘弁しとうせー。やりにくうてかなわんが。」
赤鯨衆にとって、中川は特別な存在だ。
医師として人として、皆に信頼され愛されている彼と戦うなんて、勝っても負けても辛い。
むしろ負けたいくらいだが、全力で戦う楽しさを知った今、そんなことはできなかった。

「わしが出る!」
手を上げて進み出たのは、早田だった。
「遊撃隊の代表じゃ。水軍なんぞに負けてなるかい。」
正直なところ、勝てる自信はなかった。
けれどここまで頑張った仰木隊長の気持ちを思うと、どうしても彼らを最後まで全力で戦わせてやりたかった。
隊長。見とって下さい。 わしらは負けん! 気迫で勝ったる!

「よおおし。よう言うた! 来い、早田。海の男の力、なめたらいかんぜよ!」
小源太が腹の底から声を出した。そこらへんのチンピラなら、震えあがるような迫力だ。
「ええぞぉ! 小源太!」
「早田! 頑張れよ!」
あちこちから声援が上がった。

「海の男って…。あんた以外は女やっちゅうの。ホンマに男っちゅうのはアホなんやから。」
ふふっと笑った寧波は、なあ?と青月に目であいづちを求めた。
微笑んで頷き返し、青月は卯太郎に声をかけた。
「一本入れたね。いい球だったよ。」
直江に抱かれた高耶を心配そうに目で追っていた卯太郎は、青月の声に驚いて振り向いた。

「うちらも負けんからね。あいつの分も、頑張りな。」
青月の声には、卯太郎を対等とみなした響きがあった。
こくんと大きく頷いて、卯太郎はピンと背筋を伸ばした。
見上げた先にはゴールがある。
あと2点。勝つ! 勝ってみせる!

 

倒れてしまった高耶さん。このあと試合はどうなるのか?
お正月休みの間に完結するはずだったんですが・・(笑)
なんだか長くなってます。たぶんあと一回で第2戦は終わる・・かな?

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