『ヒートアップ!』−4

 

ゴールの手前でシュート体制に入った兵頭の目の前に、高耶が立ち塞がった。
お互いのタイミングをうかがって睨み合う二人を見ながら、直江は高耶の斜め後ろに立った。
兵頭の目がちらりと直江を見た。

突然、直江が「あ!」と声を上げた。
「すみません。キスマーク残してしまいましたね。」
はっとして反射的に高耶が首に手をやった。
側にいた潮が耳まで真っ赤になった。
「た…橘っ! おまえ…何・・ゆっ・・!」
口をパクパクさせているものの言葉が続かない。

瞳に青い炎を燃やして、兵頭は直江の顔をめがけて思いきりボールを投げつけた。
すぐに手を伸ばした高耶だったが、さすがに届かない。
ものすごい勢いで飛んできたボールを、待ってましたとばかりに受けとって、直江は素晴らしい跳躍でシュートを決めた。

ボールを受けた手がじんじん痺れている。
作戦だったとはいえ、ちょっとやり過ぎたかと苦笑いした。
この人が自分のものだと、ここにいる全員に見せつけたかったのかも知れない。
どうせこのメンバーだ。気心の通じたチームプレーなど望めはしない。
ならばいっそお互いの競争心を煽りきって勝利を掴んでやる。
直江はボールを追って走った。

「あんな手にひっかかるとは、仰木もまだまだおぼこいのぅ。」
隣を走りながら嶺次郎が楽しそうに笑った。
「るせぇ。…ちょっと驚いただけだ。」
赤くなってぷいっと横を向いた高耶の背中をひとつ叩くと、
「なあんもついちょりゃせん。橘にしてやられたな。」
全員に聞こえるような大きな声で言った。

「あの野郎―っ…こおらぁ、橘! 許さねえ!」
地団太を踏んで怒る潮に、廻りから拍手と声援が飛んだ。
場が、ほっと緩んだ。
「直江のばか」
ぽつんと小さく呟いて、高耶は頬をほんのり赤くしたままボールを追った。

気迫を増してボールを取り合っている小太郎と兵頭の脇を、直江が擦り抜けた。
それだけでびりびり空気が震えた。混じり気なしの敵意が直江に飛ぶ。
その一瞬の隙をついて、直江は横からシュッとボールを弾いた。
ボールが転がった先には潮がいる。
ダッシュでボールを掴むと、速攻でゴールを決めた。
これで2点。並んだ!

息詰るような接戦のまま、ついにどちらかが1点入れれば勝利という場面を迎えた。
ゴールの手前でボールを手にしたのは高耶だった。
ここで決められたら終りだ。
高耶が飛んだ。シュートかフェイントか!
ブロックに飛んだ直江が探るように高耶の目を見た。

空中でふっと高耶が沈んだ。
前にのめって倒れ込んだ高耶に、思わず直江の腕が伸びた。
直江に体を預けるようにして倒れながら、高耶はボールを後ろに高く放り投げた。

そのボールをバシッと掴んだのは嶺次郎だった。
同時に飛んだ潮を小太郎が遮る。
兵頭のガードも振り切って、嶺次郎はゴールを決めた。
「くそう!あとちょっとだったのに…。」
ここまで接戦で来れるとは正直思っていなかった。
だからこそ悔しい。
その思いは兵頭も同じだった。
「次は勝つ!」
少なくとも、小太郎との競り合いでは負けない自信が出来た。

「そうだよな。 またやろう! 今度は負けねえぞ!」
拳を振り上げる潮に、
「武藤の元気には負けたぜよ。わしは当分みるだけでええ。」
ああ〜疲れた・・と嶺次郎は笑いながらギャラリーの一番後ろに座り込んだ。
小太郎は平然と立っている。やはり日頃の鍛錬の成果だろうか。
中川が次の試合開始は10分後だと宣言し、ゴール周辺には次の試合に出るメンバーが集まってきていた。

「やれやれ。やはりあなたには勝てませんでしたね。」
高耶の体を抱きとめたまま、直江がささやいた。
「知ってて負けたくせに。」
柔らかく直江の腕をほどいて、高耶が微笑んだ。
「あなたかボールか選ばせるなんて、いじわるな人だ。」
「お返しだ。あんなこと言ったおまえが悪い。」
ついと横を向いた高耶に、
「あれは本当ですよ。胸にちゃんと残しましたから。」
真っ赤に染まった顔を見て、直江は嬉しそうに微笑んだ。

 

第一戦は高耶さんのチームが制しました!
とはいえ、ふたりの間ではどっちが勝ったのやら・・(^^;
次の試合はどんなメンバーが戦うのかなあ?
続きは・・・期待せずに(!)お待ち下さいね〜(^^)/~
 

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