ボールが、瞬く間に手から手に移る。
たったひとつのゴールを、6人の男たちが狙うのだ。
自然と密集隊形になってしまう。
敵も味方も入り乱れてもみあうような中で、高耶がシュートを放った。
ボールを止めようと直江たち3人が一斉に飛んだ拍子に、
体が当たってバランスを崩した潮と兵頭が高耶にぶつかった。
あっと思った瞬間、直江の手は高耶に向って伸びていた。
ゴールに吸い込まれていくボールに見向きもせず、直江は高耶の体を抱きとめた。
「仰木! 大丈夫か?」
もつれあってひっくり返った潮が、起き上がりざま叫んだ。
兵頭は、高耶と潮をかばうように腕を広げて倒れ込み、背中を強打していたが、
直江に抱えられて無傷で済んだ高耶を見上げると、顔を背けて小さく安堵の息を吐いた。
ぱんぱんと土埃をはたいて二人が立ちあがると、6対5でゲームは再開された。
「大丈夫ですか?」
「ああ。」
心配そうに兵頭と潮を目で追う高耶の横顔を見つめて、
「あなたには指一本触れさせません。」
と直江がきっぱり宣言した。
「橘。おんしの決意はええが、今は試合中ぜよ。そんなこと言うちょる間ぁに、どんどん点入れさせてもらうけぇのぉ。」
冷やかすように笑うと、嶺次郎はスッと腰を落としてボードを狙ってシュートした。
ブロックに飛んだ潮の指先をかすめ、ボールはネットを揺らしながらゴールを通って落ちた。
「くっそ〜っ! このまんまじゃ負けちまう!」
自由自在なパスワークと上手いシュート、加えて人間離れした小太郎の運動能力に対抗するのは、ただでさえ難しい。
今までほぼ互角だったのは、直江たちが非常に優れた運動神経を持っているからなのだが、
それを充分に活かすには、彼らのチームワークにかなり問題があった。
高耶が直江のガードをやめて動き出してから、その弱点がはっきりと目に見える形で現れた。
シュート体制に入ろうとするたびに、なぜか必ず高耶に遮られてしまう。
絶好の位置に先回りされていたり、ブロックされてしまったり、そのたびに歯噛みしながら
(次こそは自分がゴールを決めてやる)と決意する。
その思いに縛られて、誰かにパスして点を入れてもらおう等とは思いもしなくなる。
彼らの心理を巧みに利用した作戦に、直江達はすっかり嵌まっていた。
「おんしではゴールは無理じゃ。さっさとこっちにパスをよこさんから失敗するんじゃ。」
シュートを外した直江に、兵頭の冷たい視線が刺さった。
「そんな寝言は小太郎のガードを抜けてから言ってもらおう。」
静かな口調の中に、しっかり棘が含まれている。
「だーっ! そんなことやってるからダメなんだろうが! ええかげん目ぇ覚ませよ!」
潮がたまりかねて声を上げた。
「全くおまえらチームプレーってもんを知らねえのか。」
直江も兵頭も、普通ならこんな作戦に嵌まったりしないだろう。
だが元々お互いに敵愾心を燃やしている上に、高耶が絡むと普通じゃなくなる。
この二人と組んでしまった不運に、潮はハァ〜と溜息をついた。
シュートどころかボールを取ることすら難しい。
このままでは高耶が言った通り、一点も取れずに終わってしまう。
パスワークが大切なのはわかっていても、普通のパスでは遮られて通らないのだ。
意表をつくような動きをしなければならない。
どうすれば彼らの予想を外せるだろうか。
ようやくボールを手にした兵頭と目が合ったとき、直江の頭にふっとある作戦が浮かんだ。