『ディア・ディテクティブ』−1

その日は朝から雨だった。
重く沈んだ心を、映し出したような暗い空。冷たい雫を祓って、直江は静かに傘を畳んだ。

入口の案内を見ると、転属になった職場は、この古びた建物の3階らしい。
迷わず階段を選んで、2階の踊場に差し掛かった時、
「危ねえ!避けろボンクラ!」
鋭い声と同時に、頭上から二人の男が、もつれ合うようにして飛んできた。

勢い余って、ドン!と背中から壁にぶつかった男の襟首を、
もう一人の若い男がグッと掴んで締め上げる。

青ざめて震える男に、若い男はニヤリと笑って、

「俺から逃げようなんて、いい根性してんじゃねえか。
 さあ、キッチリ吐け!あいつはどこに行ったんだ?」

目の前にいる直江を、全く無視して問い詰める。

「君、取り調べるなら、係官のいる取調室を使いたまえ。通行の邪魔だ。」

冷水があったら浴びせたい気分で言い放ち、脇を通り過ぎようとした直江の顔を、
襟を掴まれた男が目を丸くして見ている。

若い男が、初めて直江に目を向けた。

目が合った瞬間、ドクンと胸の奥が鳴った。

粗野で不躾な眼差しだ。
そう思うのに、直江は彼の瞳を見つめたまま、言葉が出なくなっていた。

なんという瞳だろう。

夜の闇を思わせる漆黒の瞳が、まるで内側から光を放つかのように輝いている。

いつしか直江は足を止めて、その黒い瞳に魅入っていた。

「アンタ…どこかで会ったか?」

訝しげに直江を見つめていた彼が、ググッと顔を近づける。

綺麗な切れ長の目が至近距離に迫って、直江は思わず息を呑んだ。

 

ふと思いついて、刑事モノを書き始めてみました(笑)
まだホントこれからですが…(^^; 楽しんで頂けたら嬉しいな〜♪

 

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