『結成!ビーチバレーボーイズ』

 

青い海、白い雲。松林をバックに遠浅の砂浜が広がる。
昔と変わらない風景が、ここにはまだ残されていた。
ただ少し違うのは、色とりどりのビーチパラソル、浮き輪にビーチボール、海を走るジェットスキーにウィンドサーフィン・・等々。

海水浴に来た赤鯨衆の面々は、珍しそうに辺りを見まわして、
「えらい賑やかじゃのぉ。」
「芋の子を洗うっちゅうのはこのことかいな。」
などと感心している。が、半数ほどがふんどし姿の彼らである。
注目を集めているのは、実はこちらの方なのだが、そんなことには全く気付いていない。
誇り高く胸を張った男達にふんどしが似合って、なんだかとても新鮮でかっこよく見えた。

「すみませ〜ん。こっちに投げてもらえますぅ?」
ビキニの女の子が手を振った。
見ると堂森の足元にビーチボールが転がっている。
「おぅ。行くぜよ。」
と投げてやると、彼女はぴょこんと頭を下げて走っていく。その先を眺めて、
「あれはなんちゅう遊びじゃ?」
岩田が不思議そうに尋ねた。

「ああ、あれはビーチバレーっていうんだ。面白そうだろ?」
潮が教えてやると、卯太郎と楢崎も側に来て見始めた。
「なあんか見てるとムズムズするのう。あんなボールもとれんのか?」
「なあなあ。ちょっくら代わってもろうて、やってみんか?」
岩田と堂森は、すっかりやる気になっている。
彼らは最近スポーツに目覚めたらしく、新しいものを見ると、すぐやってみたくなるのだ。

さっそく教えてもらったものの、なかなかコツが掴めない。
ネットにひっかかったり届かなかったりしていたが、慣れてくるとさすが日頃から鍛えているだけあって見る見る上達し、たちまち廻りに人だかりができてしまった。
「スゲェな〜。」「上手いぜ、あいつ。」
「や〜ん、あの子かわいいっ!」「頑張って〜♪」
ワアワアきゃ〜きゃ〜声援が飛ぶ。
高耶たちも、何の騒ぎかと覗きに来た。
「卯太郎たちも、なかなかやりますねぇ。」
中川が感嘆の声を上げた。

堂森・岩田ペアと卯太郎・楢崎ペアの対戦だ。
力で押しまくる堂森のスパイクを、卯太郎がよく拾っている。
それを楢崎が器用に左右に打ち分けるので、拳法でならした岩田もそろそろ疲れが見え出した。
「休憩、休憩〜。」
「隊長も一緒にやりませんか!」
嬉しそうに駆け寄る卯太郎の向こうで、全身汗だくの岩田に潮がシャワーのように水をかけてやっている。

「おい武藤。こんなとこで力使っちゃヤバイだろが。」
高耶の隣にいた千秋が、思わず小声で囁いた。
「平気、平気。わかりゃしねぇって。」
わかっているのかいないのか、屈託なく笑う潮の廻りでは、子供達がきらきらこぼれる水に大喜びして跳ねている。
小さな虹を見つけて眩しそうに視線を外すと、
「景虎、おれたちもやるか?」
親指をクィッと立てて、千秋はコートを指した。

「お前とペアで・・?」
「まぁさか。対戦するのに決まってんだろが。」
またコテンパンにしてやるぜと笑う千秋に、高耶の瞳がギラリと光った。
「ならばわしが景虎と組もう。」
すかさず清正が申し出た。
「おれもやらせてくれよ、千秋先生!」
三池哲哉がやる気満々で加わった。

千秋・哲哉組と高耶・清正組。
現代人としてバレーボールを経験している彼らだ。
ビーチボールは初めてだったが、サーブの瞬間からいきなりハイレベルな戦いになった。

シュッと清正の鋭いサーブが唸る。
危なげなく受けた千秋が右に上手くトスを上げると、
「どりゃあっ!」
掛け声と共に、急角度で哲哉のスパイクがネット際に落とされた。
そのボールが砂に触れる一歩手前で、ザッと滑りこんだ高耶がレシーブしてはねあげる。
後方からジャンプして清正が叩きつけたスパイクが、哲哉の顔面を直撃した。
「痛ってぇ! くっそぉ〜根津のやろう…」
ビーチボールだからとなめてはイケナイ。
哲哉の頬は真っ赤に腫れ上がった。

次のチャンスに千秋がなんとか1点を取り返し、試合は怒涛のラリー合戦に突入した。
とにかく負けず嫌いが揃っている。
とんでもないボールでも、負けてたまるかの一念で、なんでもかんでも拾いまくって打ちまくる。
ギラギラ照りつける太陽と火傷しそうに熱い砂で、4人はフラフラになっていた。

「もうやめて下さい! せめて休憩を…。」
直江の心配する声も耳に入らない。
潮がせっせとかけてくれる水も、あっというまに蒸気に変わる。
ゆらりと陽炎が立ち昇った。

「いいかげん諦めろよ。力なしの試合で俺に勝とうなんざ、100年早ぇんだよ!」
千秋の強烈なスパイクが、高耶の顔をめがけて打ち込まれた。
思わず出した腕に当たって撥ね返ったボールを、待ってましたとばかりに、千秋が渾身の力で叩きつけた。
レシーブが間に合わない!
「景虎! わしにまかせろっ!」
清正が、頭から半分砂に埋もれるようにして、背中でスパイクを受けた。
高く上がったボールを、高耶が大きく背を反らせて打った。
「入れ〜っ!!」
ネットをすれすれをハイスピードで走リ抜けたボールは、千秋のすぐ脇をかすめた。
哲哉がレシーブに飛ぶ。
その指の、わずか1センチが、届かなかった。

うおおぉ〜っと歓声があがった。
ガッツポーズを決めた高耶に、清正が親指を立てて応えた。
「んな喜ぶほどのことかよ。やっと3対2になっただけだろうが。」
そう言いながら、千秋は悔しげに顔をしかめた。
「これから差をつけてやるさ。あんときの借りは返すぜ。」
不敵な笑みを浮かべて、高耶が言い放った。
「ったく。子供みたいな奴だな。昔の負けにこだわりやがって・・」
「どっちがだ。」
ネットをはさんで睨み合う瞳が、嬉しそうに輝いている。

ボールを打って、拾って打って、また拾う。
もう肩で息をするのも辛いほど疲れているのに、やめようとは思わなかった。
ワクワクする。戦うことが楽しくてたまらない。
足が動かなくなって、腕が上がらなくなるまで、このまま続けたい気がした。
「ピイィィーッ!」
突然、甲高い笛の音が鳴り響いた。

同時に大量の水が、ザバザバァーっと4人の頭上から降ってきた。
「なんなんだ〜っ!」
「誰だ! ・・ったく何すんだよ!」
ずぶ濡れで目も開けられない。
頭を振ってやっと顔を上げた4人の前で、
「いいかげんになさい! これ以上は私が許しません!」
中川がまるで仁王のように、すっくと立って叱りつけた。
「休憩もなしに長時間この炎天下に試合をするなんて。自覚が無さ過ぎますっ!!」
「わかった。わかったから、中川…。」
こうして2時間に及ぶ長い試合は終わりを告げた。

「凄い試合だったよな。」
「ビーチバレーまたやろうや。」
試合に興奮した観客や卯太郎たちは、すっかりビーチバレーに夢中になり、浜のあちらこちらで俄かビーチバレーチームが結成された。

水分補給と休息を言い渡され、高耶たちは松の木陰で寝転がった。
心地よい風が火照った体を冷ましてくれる。
直江が見守るように横に座った。
高耶はその手にそっと触れると、安心したようにすうっと眠りに落ちた。

「今回は、お前の勝ちってことにしといてやるよ。」
気持ち良さそうに眠る高耶の横顔に呟くと、ごろんと隣で寝そべった。
人々の歓声に混じって、波の音が聞こえてくる。
このひとときを幸福と呼ぶのだろうか。
らしくないな・・と笑って、千秋は静かに目を閉じた。

    2004年8月28日  サラサ様に進呈       

 

サラサさんから「ビーチバレーに興じる赤鯨衆」というネタを頂いて、
きゃ〜それってかっこいいよ〜!!ってノリだけで書いてしまいました。(^^;
細かい事は気にしないで、広い心で軽〜くお読みになって下さいね!(滝汗)
 

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