『朝顔』-1

4時にはバイトが終わるから…
そう約束したのに、もう店の時計は4時を過ぎてる。
早くしなけりゃ…と、ロッカーに脱いだ仕事着をぶち込んだとたん、
忙しさに紛れて忘れかけた言葉が、不意に蘇った。

「今夜は帰さなくていいですから…
 ふつつかな兄ですが、どうぞよろしくお願いします。」

…って、美弥のやつ何を考えてんだ!
…てか、むしろ何も考えずに言ったセリフだと思いたい。

にっこり笑って、直江にペコリと頭を下げた美弥の顔と、
頷いた直江の姿まで浮かんで、
高耶は思わずロッカーに突っ伏したくなった。

「何やってんだ仰木?おまえ急いでたんじゃ…」

「うわっ!すいませんッおっお先ッス」

挨拶もそこそこに、慌てて飛び出した背中を、
「ありゃデートだな。」
店長が笑って見送った。

夏の陽はまだ高く、うだる暑さの中で、ひぐらしの声が響いていた。

*************

待ち合わせの場所に走って行くと、止まっている直江の車が見えた。

「悪りい。待たせちまった!」

息を切らして駆け寄り、助手席に乗り込んだ高耶に、直江は笑って首を振った。

「私も着いたばかりですよ。走らせてすみません。暑かったでしょう?」

はい、どうぞ。
と差し出されたスポーツドリンクは、冷たくて容器の外側に浮き出した水滴が気持ちいい。

ごくごく飲み干すと、火照った体に潤いが染み渡る。
ホゥと息を吐いてシートにもたれた高耶の額を、直江の手がそっと覆った。

「なお…?」

面食らって退けようとした手を、もう一方の手で押さえ込み、
直江は運転席から身を乗り出して、間近で高耶を見つめた。

「熱は無いですね…でも頬が赤くて瞳が潤んでいる。」

額から手を離し、戸惑う瞳を見つめた。
煌めく星が宿る吸い込まれそうに美しい瞳が、直江を映して揺れている。
魅きつけられる感情のままに、強引に唇を重ねた。

驚いて退きかける体を封じ込める。
ただそれだけで、堪らないほど胸が高ぶった。

「んん…っ」

深くなる口づけに翻弄されながら、高耶が苦しそうに顔を逸らした。

 

2008年9月16日

この話は、こうれんさんへのキリリクです(^^)
元ネタは、こすげさんがサイトでお描きになってる高耶さんのお誕生日のお話。
その夜の話を…というリクエストなので、まだ話はこれからです(滝汗)
キリリクなのに、またしても続きものになってすみません…m(_ _)m

 

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