優しい雨−5

 山の東と西に別れて頂上を目指した両班は、それぞれ山頂まで後少しのところに来ている。
 潮の班は、最後の難関となりそうな三の谷に入ろうとしていた。
「寺内から情報が来とるぞ!」
先に三の谷に着いていた村松が、きちんと聞いた情報を紙に書いていた。
「おう、よう書けとる。この位置に火薬があるんじゃな。」
「ほぼ間違いなしじゃち、寺内が言うとった。ただ火薬の量がわからんきに。ほんに大丈夫なんじゃろうか。」
村松が心配しているのは、道が崩れないかどうかだ。谷というだけあって、道の片側は崖になっている。
川までの落差は大きく、落ちたら無事ではいられない。
しかしこの道を避けるには、ずっと下に戻って山を大きく廻りこむしかないのだ。

「岡村。どうだ、行けそうか?」
 谷口が問いかけると、岡村は険しい表情で、じっと村松が書いた地図を眺めた。
「はっきり言って危険はある。じゃけんどわしはなんとかなる、思うちょる。」
 村松、谷口、高井そして潮の4人は、お互いの目をみつめて頷いた。
「よしわかった。岡村やってくれ。わしらはお前に賭ける。」
 谷口はそう言うと、岡村に自分のインカムを渡した。

偵察隊の木村は、あの後、見つけた敵の偵察隊二人とやりあってしまい、怪我をして動けなくなってしまっていた。
木村とペアを組んでいた中田が、山下と一緒になってなんとか偵察隊二人を捕虜にしたが、そうなると見張りが要る。
村松たちが中腹で捕まえたひとりを山下が連れてきて、中田と山下は捕まえた3人を見張ることになった。
 結局山頂を目指せるのは、今ここにいる5人と、寺内の計6人だ。
そして困った事に、もしここで道が崩れたら、この先に進めるのは寺内たったひとり。
この賭けの代償は大きい。
なにがなんでも成功しなければ!
五人の頭の中はその思いでいっぱいだった。

 兵頭たちが歩いている道は、潮たちのいる三の谷と川をはさんだ対極の道に続いていた。
この山には深い谷があり、東と西でまるで別のルートの登山道が出来ていた。
二つのルートは、山頂付近でやっと交わる。
途中の道では、お互いの姿を見ながら手が届かないという、じれったい状況が何回もあるのだ。
 以前はこの二つのルートを結ぶ橋があったのだが、過疎状態が続いた為に、老朽化して崩れてしまった。
今は空を飛びでもしないと、対岸へ一気にいくことは出来ない。

 三の谷を過ぎてもう少し上っていくと、両方の登山道が交わる道に出る。
このまま順調に進めば、道が交わったとたんに両者が激突するのは間違い無い。
 潮も兵頭も、心中でそのときを待っていた。
訓練の参加者に手出しはできない。だが、二人が戦うのは手出しとは言わない。
二人は勝手にそう解釈していた。

 潮たちが火薬の用意をしている頃、待ち伏せしている長岡たち3人は、潮たちの動きを上から伺っていた。
しかしあと少しのところで見えない。
「なあ、あいつらなんかしとるんじゃないか?」
「当たり前じゃろう。ここに罠しかけちゅうことは、とっくにバレちょる。じゃがどうやってここを通るつもりかのう。」
長岡が作った罠は、予想どおり火薬を使ったものだった。
それも始めの爆発を越して次にさしかかると、次の爆発と同時に前と後で爆発が起き、動きがとれなくなったところを、待ち伏せしている3人が上から狙い打つという念の入った罠なのだ。
「ここは通さん。勝つのは俺達だ。」
もうすぐ対岸を兵頭たちが通る。もしかしたら、潮たちが罠にかかった姿を見せられるかも知れない。
時限発火スイッチを押す長岡の胸は踊った。

「よし、行くぞ。」
 岡村の手には、少量の火薬の入った筒が何本もあった。
導火線にシュッと火をつけて、狙いを定めて投げると、行く手に小さな爆発がふたつ起きた。
小さいとはいっても、通っている最中だったら怪我は免れない。
「やっぱり火薬だったか。けどたったこれだけなんて考えられん。油断するなよ!」
谷口が叫んだ。
「おぅ、わかっとる。次はあっちじゃ。」
寺内の知らせた位置を確認して、もうひとつ筒を投げる。またふたつ小規模の爆発が起きた。
こうして仕掛けられた爆弾を先に爆発させながら進むのだ。
思った以上に順調で、岡村は内心ほっとしていた。

「なんであそこが爆発したんじゃ!」
上から見ていた長岡が思わず声を上げた。今爆発したのは、たった今長岡が爆発させようとした場所ではない。
「奴らが火薬で誘爆させちょるぞ!」
平田が叫ぶと同時に、長岡が仕掛けた爆発が起きた。
 潮たちは間一髪通り抜けたが、長岡が仕掛けた罠は、時差で次々と爆発していくようにセットされている。
なにも知らない岡村が途中の幾つかを誘爆させれば、予想以上の規模で、あちこちで一斉に爆発が起きてしまうことになりかねない。
「いかん!このままじゃ道が崩れる。止めないとみんな死んじまう!」
蒼白になって叫びながら、長岡が崖を降り始めた。

「長岡!やめろ! お前死ぬ気か!」
平田と永井が止めるのも聞かず、長岡は必死に下に向った。

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