旧制第一高等学校寮歌解説
荒潮の |
明治45年第22回紀念祭 樂友會作歌作曲
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(本曲は元來男聲三部曲として編作せられたるものなれども本書には只Melodyのみを掲ぐ) | 1、荒潮の潮の八百路ゆ 打ち寄する 底もとどろの 千重男波 われてくだけて ちる中に ゆるがず立てる 巖とも たとへつべしや 益良雄が かたき心に 誓ひてし 廿二年の 來し方の *「とどろ」は昭和50年寮歌集で「とゞろ」に変更。 2、 潮よ波よ 荒くとも 風よ 曉の星 またたけば やがて静けき 波路の彼方 床しくも 聞ゆるみ歌 胸の小琴を 引きしめて 歌へ 「荒潮の」の句を前に出し、2行以下の段を下ろして表示。これを昭和10年寮歌集から、行の書き出しをそろえ現在の表示に改めた。「荒潮の」の句が、この寮歌の主題であり特別であることを詞・曲で示すものであろう。 |
6段3から5小節下の歌詞「廿二年」、「にじれにねん」を「にじうにねん」と訂正した(「ふ」かも知れぬが) 一高寮歌には合唱曲としてこの寮歌の他、明治39年「みよしのの」(音樂隊)、大正11年「紫烟る丘の上」、大正13年「宴して」、昭和2年「散り行く花の」(樂友會)がある。ただし、低音部や高音部の譜が寮歌集に残っているのは、「みよしのの」と「散り行く花の」。 現譜には、昭和10年寮歌集で伴奏部分の譜は削除され、反復記号もdal segnoから単純な反復記号に変った。また、速度記号は、1番歌詞最初(荒潮の)のlento(ゆるやかに)、次以下のmoderato(中くらいのはやさで)に代り、曲頭の「緩かに」に統一変更された。 不完全小節で始まり不完全小節で終わる(歌詞部分)アウフタクトの曲。伴奏部分・歌詞部分の途中にも不完全小節を配す(1段5・6小節、5段4小節、同5小節、8段1小節、同5小節)。歌詞の語句にきめ細かく応じた結果であろう。 現譜にある3箇所のブレス(息継ぎ)記号は、原譜にはない。昭和10年寮歌集で付加された。現譜は、伴奏部分の削除、速度記号の変更、ブレスの有無の他は、原譜に全く同じで、変更はない。 |
語句の説明・解釈
明治29年2月音樂部はロンテニス部とともに校友会からはずされたが、明治43年2月樂友會として再建された(会長は森 巻吉教授)。練習は週2回で、1回は斉唱、合唱などの個人教授、1回はヴァイオリンなど器楽の個人教授であったという(一高同窓会「自治寮60年史」から)。「荒潮の」は、再建樂友會最初の作歌作曲寮歌である。 |
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
荒潮の潮の八百路ゆ 打ち寄する 底もとどろの 千重男波 われてくだけて ちる中に ゆるがず立てる 巖とも たとへつべしや 益良雄が かたき心に 誓ひてし 廿二年の 來し方の |
1番歌詞 | 荒潮の潮の流れが幾つにも分れ、海の底から轟音を轟かせて、高波となって幾重にも巌に打ち寄せ、割れて砕けて散っている。荒波に揺るぐことなくそそり立つ巌にも喩えられる固い心で、雄々しい一高生は自治を守ると誓って、一高寄宿寮は開寮以来二十二年が過ぎた。これまでの栄えある寄宿寮の歴史を祝って、さあ、寮歌を歌おう。 「底もとどろの 千重男波」 海の底から大きく響きわたるような、幾重にも重なって打ち寄せてくる高波。「とどろ」(昭和50年寮歌集で「とゞろ」と変更)は、擬音語で、とどろき響くこと。「男波」は、低い波の次に打ち寄せてくる高い波のことである。 「かたき心に 誓ひてし」 四綱領に則り寄宿寮の自治の礎を築き、守っていこうという固い誓。 |
潮よ波よ 荒くとも 風よ |
2番歌詞 | 潮の流れや波が、いかに荒くとも、風や嵐が、いかに吹き荒れようとも、明けの明星が瞬けば、やがて朝凪が訪れ静かな朝の海となる。誰が歌っているのであろうか、波路の彼方から妙なる調べが聞こえてくる。その調べに感動し合唱しよう、雄々しい一高生よ、さあ寮歌を歌おう。 「曉の星 またたけば」 「曉の星」は、明け方に東の空に輝く金星(明の明星)。「またたけば」は昭和50年寮歌集で「またゝけば」に変更された。 「波路の彼方 床しくも 聞ゆるみ歌」 波の音であろう。それが妙なる寮歌の調べに聞こえる。 「胸の小琴を 引きしめて」 胸の琴線の糸をピンと張って、「聞ゆるみ歌」に合せて。ここに「琴線」とは、心の奥に秘められた、感動し共鳴する微妙な心情。 |