旧制第一高等学校寮歌解説

希望の光

明治45年第22回紀念祭寮歌 中寮

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1、希望(のぞみ)の光紅に        輝く空や(ひんがし)
  曉の星さゆらげば      血潮ぞおどる胸の琴
  糸ひきしめて高誦(たかず)せん   彼の勇ましき自治の歌。
*「おどる」は昭和10年寮歌集で「をどる」に変更。


2、自治よ自由よ友情よ    柏の色のあさみどり
  橄欖の實のうす光      (それ)にも似ずや我友は
  花やぎわたる世の色に   染まで床しき千餘人。

3、床し我友千餘人       三(とせ)をこもる六つの寮
  (はえ)ある歴史守りつゝ     いしくもたてる向陵や
  彼の濁世(にごりよ)をよそにして    護國旗高うひるがへす。

*各番の歌詞末の句点は、大正14年寮歌集で削除。
4段4小節2音は16分音符であったが、8分音符に訂正した。
この原譜は、現譜とまったく同じである(昭和10年寮歌集で1箇所1段1小節7・8音ににタイが付けられただけ)。


語句の説明・解釈

所謂しりとり歌である。しりとりの寮歌は、他に昭和17年6月第53回紀念祭寮歌「運るもの」がある。

語句 箇所 説明・解釈
希望(のぞみ)の光紅に 輝く空や(ひんがし)の 曉の星さゆらげば      血潮ぞおどる胸の琴 糸ひきしめて高誦(たかず)せん 彼の勇ましき自治の歌。 1番歌詞 明の明星の光がゆらゆらと消えてゆくと、東の空に太陽が真っ赤に希望に輝いて昇る。血が騒ぎ高ぶる胸を引き締めて、意気高く勇ましい自治の歌を大きな声で歌おう。

「血潮ぞおどる胸の琴」
 「おどる」は昭和10年寮歌集で「をどる」に変更された。「胸の琴」は、琴線。心の奥に秘められた、感動し共鳴する微妙な心情。

「糸引きしめて」
 胸の琴線をピンと張って。気を引き締めて。意気高く。
 「胸の小琴を 引きしめて 歌へ丈夫」(明治45年「荒潮の」2番)

「曉の星さゆらげば 」
 「曉の星」は、明けの明星。明け方、東の空に見える金星。「さゆらぐ」は、ゆらめいて消えてゆく。太陽が昇れば、夜空は明るくなって星は消える。
自治よ自由よ友情よ 柏の色のあさみどり 橄欖の實のうす光 (それ)にも似ずや我友は 花やぎわたる世の色に 染まで床しき千餘人。 2番歌詞 寄宿寮の自治よ自由よ、そこで育まれる友情よ。柏の浅緑色、橄欖の実の鈍い色、これらの地味な色は、向ヶ丘で文武両道の修業に励んでいる我が友の質実剛健の姿である。千余の一高生は、花やいだ世間の風に染まることなく、向ヶ丘でつつましく寄宿寮生活を送っている。

「柏の色のあさみどり 橄欖の實のうす光」
 文武両道に地道に励む一高生を喩える。
 「柏」は、武の一高の象徴。「あさみどり」は、薄い緑色。新芽の色。「橄欖」は、一高の文の象徴。「うす」は接頭語。
「花やぎわたる世の色に 染まで床しき千餘人」
 花やいだ世間の風に染まることなく、向ヶ丘でつつましく寄宿寮生活を送る寮生千余人。「床しき」は、どんな様子か見たい逢いたいが原意。「花やぎわたる世の色」に対し、勤儉尚武の修業をいう。つつましくと訳した。
床し我友千餘人 三(とせ)をこもる六つの寮 (はえ)ある歴史守りつゝ いしくもたてる向陵や 彼の濁世(にごりよ)をよそにして 護國旗高うひるがへす。 3番歌詞 つつましい我が友千余人が三年の間籠城する六つの寄宿寮は、数々の光栄の歴史を守って、向ヶ丘に堂々とそそり立つ。濁世の塵埃を絶って、「汚れを永久に宿さじ」と、護國旗を高く掲げて、一高生は、国を守る意気が高い。

「三とせをこもる六つの寮」
 高校生活三年を全員、東・西・南・北・中・朶の六寮に入寮し寮生活を送った。

「いしくもたてる向陵や」
 「いしくも」は、立派に。堂々と。「向陵」は、向ヶ丘の漢語的表現

「護國旗」
 一高の校旗。三つ柏葉の紋の真ん中に「國」の字が入る。色は深紅。
さなり護國の旗の下 旗の色にも劣らざる 赤き心をほこりけん 古き同胞(はらから)幾度か 國思ふてふ心ある をゝしき(なんだ)流しけり。 4番歌詞 その通りだ。一高生は、護國旗の旗の下に、唐紅燃える旗の色にも劣らない赤心(まごころ)を誇ってきた。先人たちは、幾たびか、志士のように一身を犠牲にしてまで国のために尽くそうと雄々しい涙を流したことか。

「さなり」
 連語。そうである。そのとおりだ。

「赤き心をほこりけん」
 赤心は、いつわりのないこころ。まごころ。
 後漢書 光武紀上「推赤心人腹中(まごころを以て人に接し、少しも隔てを置かない。)

「古き同胞幾度か 國思ふてふ心ある をゝしき涙流しけり」
 「てふ」は連語、「と言ふ」の約。「國思ふ心ある」は、一身を犠牲にしてまで国に尽くそうとする志士の心ある。
 「あはれ護國の柏葉旗 其旗の下我死なん」(明治37年「都の空に」9番)
 「護國の旗をひるがへし 我等立つべき時は來ぬ」(明治35年「混濁の浪」4番)」
をの子の(なんだ)雨と降り をの子の心熱と燃ゆ 廿二年を培ひし 自治共同の土深し 根ざす心の櫻花 匂ふ思や紀念祭。   5番歌詞 男子の涙が雨と降り、男子の心が火と燃える。22年の間、先人の涙と血の滲むような努力で培ってきた自治共同の土は深い。すなわち自治の礎は固まった。その土から一高の伝統精神が育ち花開いた。その色美しい花を愛でながら紀念祭を祝おう。

「をの子の涙雨と降り をの子の心熱と燃ゆ」
 「ましてわれらが先人の 愛寮の血の物語 義憤の涙いまもなほ」(大正4年「あゝ新緑の」3番)

「根ざす心の櫻花」
 自治共同の深い土に根ざした心の櫻花。一高の伝統精神。また武士の心をいうか。
 「花は櫻木人は武士」(明治23年「端艇部部歌」)

「をの子」
 昭和10年寮歌集で「男の子」に変更された。
 
                        


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