旧制第一高等学校寮歌解説

闇の醜雲

明治42年第19回紀念祭寮歌 西寮

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、闇の醜雲(しこぐも)うちはらひ    豊榮(とよさか)のぼる日輪(にちりん)
  先づ東洋を照しつヽ    やがて及ばん五大洲

2、「四方の海皆はらからと」 大御心の尊くて
  君の君なるすべらぎの   仰げば高き御稜(みいづ)
「御稜」は昭和10年寮歌集で「御稜威」と訂正。

4、正義の利劍(つるぎ)腰にはき    仁愛(じんない)(たま)手に捧げ
  光は加ふ民草に       徳はなつけん諸國(もろくに)を
*「仁愛」のルビは昭和10年寮歌集も「じんない」。昭和18年寮歌集で「じんあい」と訂正。現在はルビなし。
昭和10年寮歌集で、「てらしつ」(3段3小節)の「ら」(2音・3音)にスラーが付いたが、その他は現譜は原譜と全く同じである。


語句の説明・解釈

語句 箇所 説明・解釈
闇の醜雲(しこぐも)うちはらひ 豊榮(とよさか)のぼる日輪(にちりん)の 先づ東洋を照しつヽ やがて及ばん五大洲 1番歌詞 闇を支配した醜い雲を打ち払い、朝日がぎらぎらと昇った。先ず東洋を照らして、やがて世界中を照らしていく。

「闇の醜雲」
 闇にうごめく醜い雲。夜を支配する不正・悪を象徴。東洋の民を苦しめる列強諸国を暗に示す。

「豊栄のぼる日輪の」
 「豊栄のぼる」は、朝日がきらきら輝いて昇ること。先ず東洋を照らしながら、世界全体に陽の光を及ぼしていく。日輪は正義、日本。

「やがて及ばん五大洲」
 「五大洲」はアジア・アフリカ・ヨーロッパ・アメリカ・オセアニアの五つの州。
 「呼ばば應へむ五大洲」(明治45年「春蟾かすむ」4番)
「四方の海皆はらからと」 大御心の尊くて 君の君なるすべらぎの 仰げば高き御稜(みいづ) 2番歌詞 「よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ」とお詠みになった明治天皇の御心が尊くて、王の中の王たる天皇のご威光を仰ぐのである。

「四方の海皆はらからと」
 はらからは、兄弟。人類皆兄弟。八紘一宇。
 明治天皇 「よもの海みなはらからと思ふ世に など波風のたちさわぐらむ」

「すべらぎの」
 天皇。スメラキの転。

「御稜」
 天皇が本来持つ、盛んで激しく恐ろしい威力。天皇のご威光。昭和10年寮歌集で「御稜威」に変更された。
見よ極東の君子國 正氣は凝りて成りし國土(つち)  文明の花榮ゆべく 宗教(おしへ)(このみ)みのるべく 3番歌詞 極東の君子国日本は、正しい気風が凝り固まった国土からなる。文明の花が咲く神の導く国である。

「正氣」
 天地にみなぎっていると考えられている至公・至大・至正な天地の気。正しい気風。

「文明の花」
 文教が進んで人知の明らかな国。野蛮でなく、人道を重んじる先進国。

宗教(おしへ)(このみ)
 「宗教(おしへ)」は、天皇のお導き、あるいは神道の教え。
 「前後の文脈から神道または仏教のようだが、当時の状況を考えると新渡戸校長の影響、あるいは内村鑑三の無教会派キリスト教の可能性もある。」(井下一高先輩「一高寮歌メモ」)

正義の利劔(つるぎ)腰にはき 仁愛(じんない)(たま)手に捧げ 光は加ふ民草に 徳はなつけん諸國(もろくに)を 4番歌詞 君子国日本は、天皇の徳により、正義をかかげ、いつくしみ思いやる心を以て接するので、国民は光り輝き、諸国を心服させる。

「正義の利劔腰にはき 仁愛の璽手に捧げ」」
 「仁愛」は、いつくしみ、おもいやる心。「劔」は大正14年寮歌集で「劍」に変更された。「仁愛」のルビは昭和18年寮歌集で「じんあい」と変更された。
 「胸に義憤の浪湛へ 腰に自由の太刀佩きて」(明治35年「混濁の浪」5番)

「民草」
 民。人民。

「徳はなつけん諸國を」
 天皇の徳により、諸国を心服させる。「なつけ」(懐け)は、なつかせる。心服させる。
大和島根に身は生れ 自治の園生に身は()ひぬ 才智のほこりはよしなくも 我に氣節のほまれあり 5番歌詞 身は君子国日本に生れ、育ったのは向ヶ丘の自治寮である。たとえ才知の誇りはなくても、我に気骨の誉がある。

「自治の園生」
 向ヶ丘。

「氣節のほまれあり」
 「氣節」は、気概があって節操の堅いこと。気骨。
 与謝野鉄幹 『人を恋ふる歌』4番 
  「ああわれダンテの奇才なく
  バイロン、ハイネの 熱なきも
  石を抱きて 野にうたう
  芭蕉のさびを よろこばず」
思へばすぎし十九年 悲歌せじ今は徒に 祖國の使命重くして 健兒が胸に血潮わく 6番歌詞 過ぎ去った19年の我が一高寄宿寮の歴史を振返り、いたずらに過去の禍や不幸を歎いたりしない。祖国日本に対し果たすべき重い使命があるからだ。その使命を思う時、一高健児の胸に熱い血潮が湧く。
                        


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