旧制第一高等学校寮歌解説
そよぐ橄欖 |
明治41年第18回紀念祭寮歌 北寮
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1、そよぐ橄欖風かほる 瑞枝の春に暁の 光こぼるヽ木下蔭 青苔とざす岩が根に 千里の力こめて湧く 清水の歌や自治の曲 *「かほる」は昭和50年寮歌集で「かをる」に訂正。 2、白雲迷ふ山のかひ 八百瀬の岩にくだけては しぶきに虹を匂はせて 十幾年を谷の水 夕日に榮ゆる山紅葉 みな底深く燃ゆる哉 3、流れて今ははるばると 黄金の花に陽炎の もゆる綠の野をひたす あゝ洋々の春の水 川霧はれて紺青の 波にきらめく朝日影 4、岩間の泉十八の 年をかさねて今日こヽに 白帆うかべる長江は 自治の流の鼕々と 望の歌にどよむ哉 どよむ流の清き哉 *作詞者は、野球部凱歌「古都千年の夢つゝむ」と同じ作詞者 |
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2段2小節2音の付点はと8分音符に改めた。6段4小節の音符下かなの位置はそのまま。 1段3小節3,4音は、現譜では付点8分音符と16分音符に変更。また、6段1小節の二つの8分音符連符が、現譜では、ともに付点8分音符と16分音符にそれぞれ変更された(ともに昭和10年寮歌集)。タタのリズムは無くなり、すべてタータのリズムとなった。 |
語句の説明・解釈
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
そよぐ橄欖風かほる 瑞枝の春に曉の 光こぼるヽ木下蔭 青苔とざす岩が根に 千里の力こめて湧く 清水の歌や自治の曲 | 1番歌詞 | 橄欖の瑞々しい若葉の中をさわやかな朝風が吹き渡って、向ヶ丘に朝日の光が射している。水苔もつかない大岩の付け根から千里の先まで流れていくように清い水が滾々と湧き出した。自治はこの湧き水のように、清い誠の心をもって、先人から後輩へ幾末までも伝えていかなければならない。 「橄欖風かほる」 橄欖の若葉の中をさわやかな朝風が吹き渡る。次に「曉の」とあるので、朝風である。「橄欖」は、橄欖は一高の文の象徴。その「木下蔭」は向ヶ丘。「かほる」は昭和50年寮歌集で「かをる」に変更された。 「瑞枝の春」 みずみずしく若い枝 「青苔」 あおごけ。ここでは水苔。 「千里の力」 千里の先まで水が流れていくように。幾末までも自治を伝えていくように。 |
白雲迷ふ山のかひ 八百瀬の岩にくだけては しぶきに虹を匂はせて 十幾年を谷の水 夕日に榮ゆる山紅葉 みな底深く燃ゆる哉 | 2番歌詞 | 白雲が乱れる山あいの、多くの瀬で岩に当たって砕けては、しぶきに虹が立って色美しく映える。このように大岩の付け根に湧き出した水は、十幾年を渓谷を流れてきた。夕陽に真っ赤に染まった山紅葉は、水面に影を落として、底深く燃えているようだ。 「八百瀬の岩」 「八百瀬」は、多くの瀬、あるいは幾重にも重なった瀬。 「山のかひ」 山裾と山裾との交わるところ。「かひ」は、交ヒの名詞形。山あい。峡谷。 「虹を匂はせて」 しぶきに虹の色が美しく映えて。匂ふは、色にそまる、色美しく映えるの意。 「夕日に映ゆる山紅葉 水底深く燃ゆる哉」 夕日に映えた山紅葉が、水面に影を落として、水底に真っ赤に燃えている。 |
流れて今ははるばると 黄金の花に陽炎の もゆる綠の野をひたす あゝ洋々の春の水 川霧はれて紺青の 波にきらめく朝日影 | 3番歌詞 | はるばると山あいを流れ下って、今は、春の陽射しに陽炎が立ち上る緑の草原を流れる洋々とした春の川となった。川霧が晴れて、あざやかな藍色の川波に朝日の光がきらめく。 「黄金の花」 太陽の光。陽射し。 「もゆる」 焔や陽炎が、ちらちら、ゆらゆらと立つ意。 |
岩間の泉十八の 年をかさねて今日こヽに 白帆うかべる長江は 自治の流の鼕々と 望の歌にどよむ哉 どよむ流の清き哉 | 4番歌詞 | 岩間に湧く泉は、年を重ねて、今日ここに18歳となった。白帆船を浮かべる隅田川には、自治の流が鼕々と寮歌を鳴り響かせている。その波音があたりに鳴り響いて、なんと清いこと。 「白帆うかべる長江は」 「長江」は墨江、すなわち隅田川。一高のあった本郷からそう遠くはない。「白帆」は、船に張った白い帆。また、その船。 「鼕々と 望の歌」」 「鼕々と」は、鼓の音の形容。鼕は、鼓の音。「望の歌」は理想の自治を望む歌。寮歌。 「どよむ」 あたりを揺り動かすように音や声がひびく。 |