旧制第一高等学校寮歌解説

時は流れて

明治37年第14回紀念祭寄贈歌 京大

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1、時は流れて十四歳   花春毎に移へど
  向が陵に咲き匂ふ   自治には永遠の光あり

2、人また去りて幾千の  運命は千々に變れども
  五寮の面勤儉の     色は變らじ千代かけて

3、王師十万海を越え   艇隊浪を蹴破りて
  千古の恨晴らす時   今宵健兒の歌いか
*「十万」は昭和50年寮歌集で「十萬」に変更。
*「浪」は昭和10年寮歌集で「波」に変更。

搖がぬ基打ち建てて  誓固めしそのかみの
  思に返る今日しもぞ   母校の空を偲ぶ哉
*「建てて」は、昭和10年寮歌集で「建てゝ」に変更。 
2段3小節3音に付点は不明確であったが、大正7年寮歌集で確認し付点8分音符とした。

ホ長調・4分の2拍子は不変。その他、譜は次のとおり変更された。下線はスラー。

1、「ごーとに」(2段2小節)  ファーミドーレ(遅くも大正7年寮歌集、ただしスラーは昭和10年寮歌集)
2、「むこーが」(3段1小節)  ソーソミード(昭和10年寮歌集)
3、「ぢちには」(4段1小節)  レーレドーレ(昭和10年寮歌集)
4、「とわの」(4段2小節)  ミーソソー(昭和10年寮歌集)

 以上、タタ(連続8分音符)のリズムが、すべてタータ(付点8分音符と16分音符)のリズムとなった。


語句の説明・解釈
語句 箇所 説明・解釈
時は流れて十四歳 花春毎に移へど 向が陵に咲き匂ふ 自治には永遠の光あり 1番歌詞 一高寄宿寮が開寮されてから、時は流れて14年たった。桜の花は、毎年、春に咲き、そして散るけれども、向ヶ丘に美しく咲いている自治の花は、永遠に散ることはなく、光り輝いている。

「移へど」
 花が散るけれども。

「向が陵」
 一高の所在地、本郷区向ヶ岡彌生町。
人また去りて幾千の 運命は千々に變れども 五寮の面勤儉の 色は變らじ千代かけて 2番歌詞 寮生は入ってきては出ていく。幾千の寮生の運命は、さまざまであるが、一高寄宿寮の伝統である勤倹(勤勉と倹約)の精神は、幾末までも変わることはない。

「五寮の面」
 「五寮」は、東・西・南・北・中の5棟の一高寄宿寮。「面」は、顔だが、ここでは精神、伝統をいう。

「勤倹」
 勤勉と倹約。一高の伝統精神である。
王師十万海を越え 艇隊浪を蹴破りて 千古の恨晴らす時 今宵健兒の歌いか 3番歌詞 帝国陸海軍10万は波濤万里を越え、海を渡った。日本連合艦隊は敵ロシア太平洋艦隊を蹴破って、捲土重来、積年の怨みを晴らすべき時だ。今宵、紀念祭で歌う一高健兒の心意気や如何に。

「皇軍」
 皇軍。帝国陸海軍。

「艇隊」
 水雷艇などの小艇二隻以上からなる隊のことだが、連合艦隊と訳した。

「千古の恨み」
 日清戦争で折角獲得した遼東半島の領有を、ロシア・ドイツ・フランスの三国の干渉により、清国に還付させられた恨み。日本は、その後、臥薪嘗胆をスローガンにロシアへの報復のため海軍力を中心に軍備の増強を図ってきた。「千古」は遠い昔のこと。ここでは、「先古」(過去。昔)の意味である。
搖がぬ基打ち建てて 誓固めしそのかみの 思に返る今日しもぞ 母校の空を偲ぶ哉 4番歌詞 揺るがない自治の礎を打ち建てて、四綱領に基づいて自治を始めると固く誓った立寮の精神を振返るのが今日の紀念祭である。東の方角母校一高の空を偲ぶとしよう。

「誓固めしそのかみの思」
 立寮の精神。「かみ」は昔。
                        


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