2003年10月24日

T・REX通信

【第二回 失われた時を求めて/チャールズ・ナイトのティラノサウルス】


                                   (チャールズ・ナイト作 フィールド自然史博物館所蔵)
赤い夕焼けの平原。
トリケラトプスとティラノサウルスが対峙している。

上の絵は1930年代に書かれたチャールズ・ナイトの有名な復元画である。
貴方が1990年代以前に子供で恐竜図鑑に夢中になった経験があるならば必ずこの絵に似た構図の絵を見たことが
あるだろう。

ティラノサウルスはゴジラやレッドキングといった怪獣のように直立し、尻尾を引きずって歩く。
トリケラトプスは単独で行動している。
二頭は出会い,映画の中の怪獣たちのように戦いを始める。
この絵はその戦いが始まる瞬間を描いた絵だ。

私はこの絵を見るたびに郷愁を感じる。
ここにいる恐竜たちは現在の科学では否定されている。
もうティラノサウルスは怪獣のような姿勢をしていない。完全な骨格の発見と力学的な解析は彼らの姿を劇的に変えた。
トリケラトプスも群れで暮らす動物と現在は言われている。
科学的な成果は恐竜たちを動物園にいるようなリアルな生物に変えた。
 しかし、貴方にとっても、私にとってもかって恐竜とは実在した怪獣ではなかっただろうか?
ゴジラもレッドキングも尻尾を引きずるティラノサウルスという現実と空想の境界に居住する生物を通じてリアルな
存在ではなかっただろうか。博物館で、図鑑のなかで空想の怪獣達と同じ姿勢で立ち上がるティラノサウルス、大人たちはそれが実在した生き物だという。子供心に、そんな生き物がいたならばゴジラもこの世界のどこかにいるのではと感じた無邪気な日々は貴方になかっただろうか。

そんな失われた時へと、この絵は私を誘ってくれる。

この絵に限らずナイトの恐竜達は科学知識としては意味を失っている。しかし、かって恐竜にリアルな世界と空想の世界をつなぐWonderを感じていた日々を想起させるアートとしてはその輝きを失うことはないだろう。



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