永禄四年九月、川中島の戦いに巻き込まれて両親を失った一人の童がいた。
その童は、武田家三ツ者(=忍び)の富田次郎右衛門に拾われ、「千曲」という名前を与えられる。それから数年間、千曲は三ツ者となるための過酷な修行を課せられ、それに耐える日々が続いた。
そうして、十四歳になった彼は、晴れて一人前の三ツ者となり、武田家の重臣である秋山信友に仕えることになる。
主である信友から最初に与えられた任務は、武田信玄の娘である松姫を護衛することであった。
幼いときに両親を戦で失い、三ツ者になるための過酷な修行を課せられてきた千曲は、もはや人としての心を持ち合わせておらず、ただ愚直に松姫に仕えるだけだった。
だが、聡明で心優しい松姫の、屈託のない言動や、己をひとりの人間として見てくれる態度に接するうちに、徐々に人としての心を取り戻していく。
しかし、そんな彼の心の動きに反して、武田家と松姫には悲劇的な未来が待っていた……。