青と蒼と藍

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赤い髪

 時々、嘘だったんじゃないかと思うことがある。

 数年前、冬木の町でおこったあの聖杯戦争も、
 金髪の少女と肩を並べて戦ったことも、
 赤い外套を羽織った騎士と出会い、戦い、別れたことも、
 血にまみれた少年の背中を哀しげに見つめていた時のことも、

 なにより、自分の心がこんなにも変わってしまうものかと、

 嘘だったんじゃないかと思うことがある。



 父の最後の言葉を聞き、魔術師として生きると誓ったあの日。
 まさかこんな感情を自分が持つことになるとは思いもしなかった。

 自分が、一人の男を心のそこから好きになるなんてこと、ありえないと思っていた。

 あきらめていた、そう言ってもいいかもしれない。
 こうやって一人の男を好きになり、その男のせいで泣いたり笑ったり怒ったり、こんなにも感情を揺さぶられるなんて、自分には絶対にありえないことだと思っていた。

 昔から、初めて彼を見た時から、意識していたのは確か。
 でもそれは、ちょっとした興味と、わたしには出来ないだろうことをやっていた憧れ。
 まさかあの少年を――自分が愛することになるなんて夢にも思っていなかった。

 うそみたいな、昔のわたしからはうそとしか思えないような、でも現実のこと。
 それは、あの戦いから四年以上経った今も続いている現実。




 背中にあたる柔らかな布団。
 男が動くと、ぎしり、とベッドが小さな音を立てた。
 なかなかに上等な部類に入るこのベッドは、上から来る衝撃をやんわりと受け止めてくれる。

 こっちに来てまだいろいろとお金に苦労していた頃、ベッドぐらいは良いやつを買おう、そう言ってこれを買ってきたのは男のほう。
 かつては畳の上に敷いた薄っぺらい布団で満足していた男がよくも堕落したものだと思ったけれど、なんのことはない、こういう行為の時にわたしのことを気づかってのもの。
 そういえば、昔、この男の部屋で抱かれた時は、よく体の筋を痛めたりしたっけ。
 わたしの男は、昼間とは違って夜のほうは意外と激しい。
 
 三年。
 渡英してから三年、わたしと男が愛情を育んだ場所、なんて言ったら赤面ものだけど、でも実際、そういった行為のほとんどがこのベッドの上で行われてきた。全部ではないけど。
 
 今もそう。
 瞳を開ければ、ほら、男がいる。
 薄暗い部屋の中で、やわらかにゆれる赤い髪。
 どんな闇夜でも、どんな遠くからでも、決して見失うことのないように、赤く染まっている男の髪。
 わたしの好きな赤い髪。わたしの愛している赤い髪。

 確認するように、わたしはそっと手を添える。
 白い手のひらの中で、その髪が確かに赤く染まっている。

「大丈夫だよ、遠坂」

 むかし、どこかで、誰かから聞いたような台詞を男が言った。

「士郎……」

 いつの日からか、わたしが愛することになった男の名を、呼んだ。



 熱い感覚がせり上がってくる。
 自分の体の中に異物が入り込んでくる感覚。
 ゆっくりと、でも意外なほどに力強く、それはわたしの中を満たしてくる。

「ん……」

 入り込んでくるそれをむかい入れるように、無意識のうちにそこが蠢動する。
 やわらかな壁に穴をうがつ士郎のそれ。
 それが大きいのか、それともわたしのそこが狭いのか、比較対照を持たないわたしにはさっぱりわからないけれど、驚くほどに密着している二つのそれは、奥へと動くだけでぞくぞくするような快楽を生み出してくる。
 
 壁をこすりたてながら進入してくるそれが、わたしの一番深いところに到達した。

「ふあぁっ……んん」

 先端がかすかに触れた感触があった。
 声が自然と漏れた。体を震わせ、背をそらせる。
 士郎の眼前にわたしの首筋がさらされると、待ってましたとばかりに士郎が吸いついてきた。
 舌が這わされる。

「んんん……っ」

 首を滑る生温かい感触に、わたしはまたしても体を震わせる。
 この数年間で気づいたことなんだけど……どうも士郎はキスをすることがやたらと好きらしい。
 それも口に限らず、こうやって首筋にとか喉とか耳とか、わたしの全身のいたるところにキスを落とす。
 そう、全身くまなく。
 わたしの体で、彼の唇と舌が触れていない箇所など無いのではと思うぐらいに。

「んんっ、あ、あ……」

 士郎の舌がわたしの首を這い回る。
 その動きはあくまで優しく、決して強く吸うようなことはしなかった。
 実は前に――とは言ってもまだ日本にいた頃の話だけど、首筋に思いっきりキスマークを付けられたことがあるのだ。
 次の日、学校があるというのに。
 あの時、こっぴどく『呪い』してやったからか、それ以降、むやみやたらとキスマークをつけるようなことはしなくなった。
 その代わりといったらなんだけど、外からは見えないところ……つまりは首筋なんかよりも更に際どいところ、そういった箇所にするようになった。

 なんでそんなにキスマーク付けたがるのか、わたしとしては不思議でしょうがない。
 士郎に聞いたら、遠坂の体が自分の物である証、なんだそうだ。
 わたしの体はわたしの物、そう反論したいところだけど、この数年間、研究しつくされたおかげで、最近ではわたしの体について、わたし本人よりもむしろ士郎のほうが詳しくなっているという事実がある。
 だったら士郎の体はわたしの物よ、と言ってやったら、当然だろ、なんて事も無げに返された。
 ほんと、士郎は馬鹿正直者だから扱いやすいところがあるけど、それゆえにやたらめっぽう強い時もある。
 面と向かって赤面してしまうようなことを言われるコッチの身にもなってみなさい、と常々思う。

「はぁっ、んん……っ」

 士郎の唇が、わたしの体をなぞるように下に滑り降りていった。
 首筋を離れ、鎖骨を通り過ぎ、胸の谷間を抜けていく。
 お腹の辺り。おへその少し上。そこにしっかりと吸い付いてきた。

「ぁ……っ」

 強く吸われた。
 どうやら、士郎の物であるという証がまた一つ、わたしの体に刻まれたようだ。

 満足したのか、士郎の唇がゆっくりと離れていく。
 わたしは瞳を閉じ、唇を噛みしめた。次になにが来るのか、わたしは良く知っている。

「動くぞ、遠坂」

 士郎が言った。
 わたしは答えない。
 否応を聞いてきているのではなく、これはたんなる確認にすぎない。
 どう答えても、士郎の取る行動は変わらないし、そもそもわたしが拒否するなんてこと、士郎は想像もしていない。
 そして悔しいけど、それは紛れも無い事実だった。

「く、んん……あ、あぁぁ……っ」

 奥にまで届いていたモノがゆっくりと引き抜かれていく。
 大きく広がったカサの部分が内部をこすり、深部にたまった蜜をかき出す。

「はぁ……ん、んっ」

 先端まで引き抜き、そしてまた押し込んでくる。
 ゆっくりとした律動。
 強くもなく、乱暴でもない。
 それでも、わたしは声を抑えることが出来なかった。

 いつもの行為。
 一度、最奥にまで突き込んでから、わたしを抱きしめ、体のどこかしらにキスを落とす。
 それが終わると、今のようにゆっくりとわたしの内部をかき回し始める。
 いつも通りの行為だった。
 そしてわたしもまた、いつものように囁きにも似た声を漏らす。

「あぁぁぁ……っ、士郎……ぅ」
「遠坂」
「あ、む……んんっ、んん……」

 唇が温かいものに塞がれた。見なくてもわかる。士郎の唇だ。
 いままで何度も交わした口付けも、繰り返すたびにいつも違う感触を与えてくる。

「遠坂、口、あけて」

 わたしがその言葉に従うと、すぐに生温かい舌が入り込んでくる。
 舌と舌が絡み合う感覚はいつまでたっても慣れることが出来ない。
 それでも、こうすることが心地良いというのはなぜだか理解できる。

「あん、くっ――んんっ、ん……っ」

 絡み付き、引っ張り出され、吸われる、わたしの舌。
 こっちも少しはやり返してやりたいところだけど、下のほうで入れられたり出されたりしてる今の状況ではいかんともしがたく、良いようにやられるだけ。
 その唇に、また生温かいものが入り込んできた。
 捉えようのないそれはあっという間にわたしの口腔を満たす。士郎の唾液だ。
 わたしは瞳を閉じたまま眉を曇らせた。

 飲んで、と催促するかのように舌でわたしの唇をツンツン突きまくる士郎。
 どうせ――飲まなきゃ許してくれないくせに。

「ん――っ、んく……んっ、んくっ……んっ」

 のどを滑らしていくたびに、コクコク、と音が鳴る。
 口腔を占拠していた液体が体内へと消えていった。
 唇の隙間からわずかに漏れた唾液を、士郎が舐め取っていく。
 その上で再び唇を重ねてきた。

 しばらくそうやって唇をもてあそばれ、士郎がようやく唇を離した時には、すでにわたしの体中からはいっさいの力が抜けきっていた。
 ああもう、ホント……なんでこいつはこんなにキスがうまいんだろう。
 いや、うまい……というより、うまくなった、というところか。
 五年……だものね。

「はぁ――っ、んっ……くぅ、ふあぁ……」

 士郎が再び腰を動かし始めた。
 唇を開放されたため、もう声を抑制するようなものは無い。
 律動に導き出されるように自然と声が漏れた。

「んっ、く……ああぁ……ふっ……ん」

 掻き回され、わたしのソコは潤いを増していく。
 その快感は耐え難く、とてもじゃないけどジッと体を止めてはいられない。
 両手でベッドのシーツを握り締め、逃れようとするように体をうねらせた。
 それでも、士郎の腕の中からは決して逃げられない。
 片手がわたしの腰にそえられ、もう片方の手が頬に触れている。
 力ずくで抑えつけられている訳じゃないのに、どうやっても逃げられないと思わされた。
 その上で、士郎はわたしの中を蹂躙する。

「あ、んん……し、ろう……士郎……」

 自分でもこんな声を上げられるんだ、と、なんとなく他人事のようにその声を聞いた。
 昂ぶりは確実にわたしの心を捉え始めている。
 わたしは瞳を閉じたままそれに耐えた。目は開けない。
 開けると、どうせすぐそこに士郎の顔がある。にっこりと微笑んでいるに決まっている。
 士郎が今のように優しくわたしを責め立てる時、たいていはそうだからだ。
 上から見下ろしながら、わたしの反応を逐一観察しているのだ。
 そうやって、どこをどう責めればわたしが感じるのか測っている。
 五年間もそうされ続けているのだから、そのぐらいはわかる。
 だから素直には反応してやらない。どれだけ気持ち良くても、唇を噛んで耐える。
 だって……なんとなく悔しいじゃない。

「そうやって我慢する遠坂も、なかなか可愛いよ」
「……」

 でも、あんまり効果は無かったみたい。

「じゃあ、ここは我慢できるか?」

 そう言った士郎がほんの少し腰の向きを変えた。
 その途端――

「ひぃぁ――――っっ!!!」

 快楽の波が、体を襲った。
 みっともないほどの甲高い声が、自分の唇から漏れた。

「やっぱりここだけは駄目みたいだな」

 そう言いながらまた腰を動かす士郎。

「ふぁっ――んっ!」

 そしてまた声を上げてしまうわたし。
 悔しいけど、我慢できないものは我慢できない。
 士郎が今、その先端で触れたところ。そこが、わたしの一番弱いところ……らしい。
 自分では良くわからない。はっきりとした場所も知らない。ただ、なんとなく上の方、と、そう感じるだけ。
 でも士郎は、その場所を正確に――それこそミリ単位で把握しているらしい。そして、的確にそこを突いてくる。
 士郎に開発されつくされたわたしの体は、それに抗えない。

「はぁ……はぁ……くぅ……んん」

 襲ってくる快楽に耐えようと唇を噛みしめると、士郎はそれを見透かしたかのように責め手をゆるめた。
 緩慢とも言えるゆっくりとした動きに、わたしはホッと一息つく。
 で、そうすると。

「ふあぁ――っっ!!」

 いきなりソコをえぐられる。
 油断していたもんだから、その刺激にこらえきれない。
 楔を打ち込まれたその箇所を支点に、弓のように体を反らせてしまう。
 みっともない。みっともないけど……
 どうしようもない電流のような快感がわたしの体を麻痺させている。

「くぅ……あっ、はぁ、士郎……そこは、そこだけはやめて……んっっ」
「なんでさ。気持ち良いんだろ?」
「だ、め……気持ち、良すぎるから……」

 とてもじゃないけど、我慢できない。
 このまま責め続けられたら、すぐにでも達してしまいそう。
 それも、たぶん私だけ。
 私だけ達してしまうのはなんか寂しい。できれば、士郎もいっしょに。
 でも、士郎のほうはあんまり気にしていないようで、むしろ微笑みながら言ってくる。

「気にしなくて良い、遠坂。今日はなんどでもイかせてあげるから」

 だからいっしょにイクのは最後で良いだろ、そんなふうに言う。

「そんっ……あ、くぅ……ふっ」

 そういう問題じゃないというわたしの反論は、士郎の一突きによってあっさりと封じられた。
 大きい……他人の物なんて見たこともないから比べようがないけど、大きく太い男根がわたしの体内に根を下ろしている。
 おかげで、自分の体なのに自分の意思通りにはちっとも動いてくれない。
 士郎に良いように支配されて悔しいと思う反面、その不自由さがどこか安らぐような気もして、そしてそんなふうに感じている自分がなんとなく釈然としなくて、わたしは唇を噛んで横を向いた。
 
「すねないでくれよ」
「子供じゃないんだから、別に……んんっ、はぁ……すねてなんかない」
「じゃあなんでこっちを向いてくれないんだ?」
「そんなの知らないわよっ、馬鹿っ」

 自分でも脈絡のないこと言ってるなあ、とは思うけど、しょうがない。
 遠坂凛はどうしたって素直になれないように出来ているのだ。
 二十年とちょっと生きてきて、ようやくそれに気づいた。
 そして士郎は、そのことに私よりちょっとだけ早く気づいてたわけで、しょうがないなぁ、という感じで再び私の中を掻き回し始めてくる。

「んん、ふ……ん、んっ、くぅ……あ、ふぁ……」

 閉じているつもりの唇から、滑るように漏れ出している私の声。
 そのかすれたような声だけが部屋の中に響いて……いや、それだけじゃない、もう一つ。

 クチュ……クチュ……ジュプ……チュプ……

 肉と肉がぶつかり合い、蜜と蜜が混ざり合う音。
 その音は下方から絶えることなく聞こえてくる。
 上の唇を閉じようとすればするほど、下から聞こえてくる音がより聞こえやすくなるのはなんとも皮肉だ。
 士郎のやつも、明らかにわざと大きく音が出るように腰を動かしてる、絶対。

 ジュプッ……ジュプッ……ジュプ――っ

「ひ……っ、くぁっ! あ、はぁっ、んんっ……ふぁっ!」

 突き上げてくる振動により上の唇が自然と開放された。
 自分の意思とは別のものによって吐き出されている喘ぎ声。
 火傷しそうなほど熱いものに串刺しにされながら、熱せられた吐息が唇を漏れ出る。

「くっ、遠坂の中、きつくなってきた――っ」
「あふぅ……んっ、いちいち、言わないでよっ、ふぁんっ、くぅ……ん、馬鹿っ」
「だってさ」
「いいから……黙って、んんっ!」

 言葉でも責められたら、自分がどうなるか判らない。
 だいたい、そこがきつくなっていることなど、言われなくたって私にもわかってる。
 士郎の物をギュッと抱きしめるように食いしめて、亀頭の形が判別できるぐらいにピッタリと密着しているのだから。
 その上で内部の粘膜を削り取るように擦られるのだからたまらない。

「ひぅ……っ! ぅう……はぁ、んっ、う、動かさないで……いま、動かされたらぁ……っ!」
「どうなるんだ?」

 わかってるくせに、いじわるにそう尋ねてくるのは、普段、魔術訓練でこっぴどくしごいてやってることへの意趣返しだろうか。
 むしろ、夜、こうやって責め抜かれたお返しがあの厳しい訓練へと繋がっていくわけなんだけど。
 ん……どっちが先だったのか、今となってはもうわからないような……

「はぅっ! やっ、士郎っ、それ……きつすぎるっ、うぅぅ……」

 腰の後ろに手が添えられ、ぐっと体が持ち上げられた。
 正面で向かい合うように抱きかかえられると、結合がよりいっそう深くなる。
 
「ふぁ……っ、あ、ふぅ……んんっ」

 それだけでもかなりきついというのに、さらに上下に体を揺さぶられる。
 ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、と、結合部分からは淫液が音を奏でながら溢れ出し、お互いの下腹部をねっとりと濡らしていく。
 全身が熱い。細胞の一つ一つが沸騰し始め、わたしの理性を少しずつ蕩けさせていく。

「遠坂」
「あ、んん……士郎、ん」

 士郎が唇を重ねてきた。わたしはためらわずにそれを受け入れた。
 舌が入ってきてもそれは同じ。ピチャピチャ、音を立てながら絡める。
 生温かい唾液が、お互いの口内を行ったり来たりすると、それだけで頭の中がどろどろに溶けていく。
 熱情に駆られ、士郎の頭を両手でかき抱いた。

 ああもう……どうでもいいや……

「はぁ、んっ、んっ……士郎……し、ろう」

 耳元で名を呼ぶと、彼は微笑みながら、その顔に似合わぬ凶悪なソレで私を下から突き上げてきた。

「ひぁあああ……っっ!!」

 ズンッ、と、全身を串刺しにされたような衝撃。
 その一突きで、わたしは達してしまった。
 士郎の髪の毛をしわくちゃにしながら、甲高い叫びを上げて忘我のふちを彷徨う。



「すごい……可愛いよ、遠坂」
「はぁぁぁ……んんっ……」

 うっすらと汗に濡れた頬を、士郎が犬のようにペロペロと舐めてきた。
 ちょっとくすぐったいけど、それに言及するだけの気力は今は無い。
 士郎の胸の中に顔をうずめ、荒い呼吸をくり返す。
 乱された髪の毛を士郎が優しく撫でてくれた。

 余韻にしばらく浸ったのち、ふと気づく。
 私の膣内に埋もれた士郎のソレは、いまだ力を失ってはいなかった。

「あ、ふぁ……んっ、はぁ、まだ……士郎の」

 やっぱり、わたしだけイッてしまったみたい。
 いつものこととはいえ、自分だけイかされてしまうのはなんか悔しい。

「んっ……」

 士郎はわたしのお尻に手を添えて、すっと持ち上げた。
 中からソレが引き抜かれる。
 わたしの愛液にぐっしょりと濡れているだろうソレから、わたしは目をそらした。

「ちょっと体勢変えようか」
「え……」

 士郎はそう言い、わたしが答えるよりも早く行動に移る。
 力の抜け切ってしまったわたしの体はそれに抵抗できず、ベッドの上で四つん這いにさせられた。
 お尻はちょっと高めに上げさせられ、士郎のほうに向けられている。

「やっ、士郎……これ」

 後背位だとかバックだとか犬の格好だとか、いわゆるそういう体勢。
 士郎の目からはたぶん、わたしのあそこだとかお尻の……だとかがしっかりと見えているはず。
 羞恥に頬が火照ってくるのがわかった。

「相変わらずこの格好は恥ずかしがるんだな、遠坂は」
「あたりまえ……じゃない」

 こんな格好を恥ずかしがらない女はいない。
 いくら恋人しか見ていないとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 視線を感じ、とっさに手で隠そうとしたけど、その行為は士郎の手によって止められた。

「ダメだろ、隠しちゃ」
「ぅ……」

 わたしの手は元の位置に戻され、またしても四つん這いの格好をとらされる。
 小さな唸り声を上げて抗議するけども、それはあっさりと無視された。
 ベッドの上での士郎はやたらと強気で、どことなく逆らえないような雰囲気がある。
 こういうお互いの立場が決定づけられたのはいつ頃だったろうか。
 最初から分が悪かったのは確かだけれど、わたし自身、自分がこうまで弱かったとは思わなかった。
 初めてが士郎で、その後もずっとそうだったのだからしょうがないのかもしれないけど。

「ふあっ、ん、そこは……士郎っ、んんんっ」

 士郎の指が、達したばかりで敏感になっているそこに触れた。
 濡れた秘唇がやさしく撫でられ、ツンと立ったクリトリスがつままれる。
 コロコロと転がすようにされるとなにがなんだかわからなくなり、わたしは枕を引き寄せて顔をうずめるよりほかなかった。

「ふっ……んっ……んん」

 熱い息を枕にぶつける。
 この枕がなかったらたぶん、とんでもない鳴き声をあげる破目になってしまいそう。
 快楽に膝がくだけ、腰が落ちそうになるが、士郎がそれを許してくれなかった。

「ほら、頑張って」

 自分が頑張れないようにしてるくせに無責任に言いながら、両手でわたしのお尻を支える士郎。
 持ち上げられ、さっきよりもむしろ高い場所で固定されてしまう。

「……っ」

 頭は枕の中、お尻は天井に向かって突き上げられ、とんでもなくバランスが悪く、なおかつ恥知らずな格好。
 枕に顔をうずめながら、その光景を出来るだけ想像しないようにした。
 だって、想像しようもんなら、恥ずかしさのあまり脳が沸点を超えて沸騰してしまうかもしれないから。

「――ふっ、ぁぁぁっ!」

 また、新しい感触。
 ぬめぬめと濡れた感触。
 なにをされているのかはすぐにわかった。
 舌だ。
 士郎の舌が、わたしのそこを這い回っている。

「うくっ、んっ、んん……ふあぁっ」

 枕を突き破って漏れる鳴き声。
 クリトリスを舐めていた舌がゆっくりと昇っていき、秘唇を舐め、膣内を掻き回し、また出てきて、お尻のほうにまで到達する。
 そしてまた同じ行程を今度は逆に辿っていき、クリトリスが突付かれる。
 それが何度か繰り返された。

「くぁっ! あっ、あっ……んんんん――っ!!」

 直接の感触よりも、恥ずかしい体勢をとらされ秘部を舐め回されているという事実が、わたしを今日二度目の絶頂へと押し上げて行った。
 快感に打ち震え、なんども痙攣を繰り返すわたしの体。
 ピクンッ、ピクンッ、と、自分の意思では制御できない震えが全身を包んだ。

「ん……あ、士郎っ、すぐには、そんな……んんっ」

 ぐったりとベッドに崩れ落ちるのを士郎は許してくれなかった。
 それどころか、間を置かずに再びそこを愛撫し始める。

「ひ、ぐ……っ、だ、め……士郎、そんなにされたら、また……」
「いいよ。またイッても」
「や……ぁ……んんっ、くぅっっっ」

 硬く尖った突起が、士郎の歯によって柔らかく押しつぶされた。
 お尻が跳ね上がりそうになり、それが士郎の手に押さえつけられて、そしてまた噛まれる。

「あくっ、あ、ああっ!」

 ひどく鋭敏な刺激が背筋を走りぬけ、わたしはまた達してしまった。
 荒い息を吐き出しながら、やたら敏感な自分の体をほんの少しだけ疎ましく思う。
 こうやって好き放題に責められ、なんどもイかされて、それでもまだより強い快楽を求めているこの欲深い体も。
 ついでに言えば、わたしの体をそういうふうにしてしまった我が憎たらしい恋人のことも。
 なんだか微妙に納得いかないことばかり。

「――あ」

 薄い靄がかかっているような頭でそんなことを考えていたら、突然わたしの粘膜に張り付く熱い塊り。
 それがいったいなんであるかは、これまでの経験からすぐに察することができた。

「いいか?」

 ここで、今日はもう無理、とでもわたしが答えれば、士郎はこれ以上のことはもう絶対にしない。それは確か。
 でも、後ろから腰を抱えられて、その場所に熱い塊りを押し付けられて、火傷しそうなほどの熱がわたしの全身を包んでいる。
 もっと欲しい、もっと激しく、強く、心がそうざわついていた。

 そんなふうに男を求める自分が信じられない。
 体の中心を貫かれ男とひとつになりたいと、いや、いっそ男のものに、男の所有物になりたいと思っている自分がやはり信じられない。
 人を好きになるっていうのはこういうことをいうのだろうか。

 だとすると……ああ、これはもう全部士郎がわるい。
 わたしの体をこんなふうにしたのも、わたしの心をこんなふうにしたのも、全部士郎がわるい。
 うん、そういうことにしておこう。

 一方的な責任転嫁を心の中で果たしながら、わたしはコクンとうなずいた。


「くうっ――あ、はあぁっ……んん……ふああ、ああっ」

 たちまちわたしの体内を埋めつくす熱い塊。
 その熱さに、後ろから貫かれながら甲高い鳴き声をあげてしまう。

「ん、遠坂の中、いつもよりも、熱い」

 熱さを感じていたのはわたしだけでなく、士郎も同じだったようだ。
 何かに耐えるような声を漏らしながら、わたしの腰をつかむ手に力を入れる。
 それが力強く引き寄せられ、体内の奥深くまで貫かれた。
 熱い泥濘と化しているわたしの秘部はそれをあっさりと受け入れる。
 ぐちゃり、という卑猥にすぎる音が耳から入り込み脳にまで届いた。

「くっ、あ――っ! し、ろう……っ、んんん、ああっ」

 弓なりに背をそらせると、それといっしょに髪の毛がふわりと宙に舞う。
 ほつれた数本が汗に濡れた額に張りつき、それがわずらわしくて片手でかき上げるように振り払った。

 貫かれ、そして引き抜かれる。
 後ろからのほうがやりやすいのか、士郎の律動は強く激しい。
 形が変わってしまうぐらいにお尻を強くつかまれ、それが前後左右に揺らされる。

「ひあっ、や、激し、い……士郎、んんっ、もう少し、やさしく……」
「そう言うわりには、さっきよりもきつくなってる」
「そんなこと……ふあぁっ」

 士郎の言葉を証明するように、わたしの秘部は強く抱きしめるように士郎の物を食いしめる。
 やさしくされるだけじゃなくて、激しく抱かれることもわたしは好きらしい。
 そう気づいたのは比較的最近で、それはもちろん士郎も知っている。

「くあっ、ふ、かい……士郎っ、んんっ」

 ズンッ、と、一段と深い突きこみ。
 子宮口が無理やりこじ開けられたみたいで息苦しさすら感じる。
 すると士郎はいったん腰を引き、膣口の入り口をなんどか擦りながら浅い抽送を繰り返す。
 そして、こちらの呼吸が落ち着いた頃を見計らって、再度、深く突きこんできた。

「あああぁっっ!」

 そして導き出される鳴き声。
 なんだか、いいように弄ばれてる気がする。

「やっぱり、いつ聞いても遠坂の声は可愛いな」
「――っ、ば、馬鹿っ、なにを……い……んぁっ、は、あんっ」
「うん、その声が良い」

 そんなことをほざきながら、思いのままにわたしのお尻を支配する士郎。
 後背位で責められると手を使って相手を押しのけることが出来ないので、わたしは無抵抗で責められるがまま。
 まあ、かりに手を使えたとしても、それで士郎に抵抗できるのか疑わしいところだけど。

「んん……ふあ、ああぁ……くぅ、んっ」

 士郎の手が今度はわたしの胸をまさぐる。
 昔よりは少し発達して、それなりに女らしいといえるようになったわたしの胸。
 背後から、持ち上げるようにそれが揉まれた。

「はあっ、んっ、んっ……士郎……」

 胸が士郎の手の中でおもしろいように形を変える。
 甘く、やわらかい快感。
 乳首がつままれると、それが少しだけ鋭敏な快感に変わる。
 それらが後ろからの責めとあいまって、再びわたしを絶頂へと押し上げていった。

「んっ! 士郎っ、わたし……また……」
「ああ、俺もそろそろ……」

 士郎はそう言って、わたしの中からいったん自分の物を引き抜いた。
 なんで……とわたしが問いかけるよりも早く、体がクルリと反転させられた。
 向かい合い、さっきまで見えなかった士郎の顔が瞳に映る。
 わたしの顔をはっきり確認するみたいに、士郎の手が頬にかかった。
 唇がやさしくふさがれる。

「ん……」

 甘い吐息が混じりあう。
 頬にふれる手がひどく柔らかく感じられて、わたしはそっと上から手を重ねた。

「遠坂」
「ん、ぁ……士郎」

 お互いの名を呼び合って、もう一度士郎がわたしの中に入ってくる。

「あ、ああぁあ……っっ!」

 限界近くまで昂ぶっていた体はすぐそれに反応した。
 一気に昇りつめていく。

「し、ろう――」

 激しい快楽に押され、意識が朦朧とし始める。
 体が悲鳴をあげているのか、哀しくもないのに涙がうっすらと滲んできた。
 視界がかすみ、士郎の顔がぼやける。

「遠坂」

 士郎の声もどこか遠くのものに聞こえる。
 律動が止まり、体が思いっきり抱きしめられた。
 骨が折れてしまうかと思うぐらいに、強く。

「あ、あぁっ……士郎――っっ!!」
「くっ」

 体内で熱い息吹が弾ける。
 それと同時に、この日最大の絶頂感がわたしの全身を包んだ。



 緊張から弛緩へ。
 時間がゆっくりと移る。
 荒かった吐息が、少しずつ緩やかになっていく。
 士郎はわたしに体重をかけないよう気をつけながら、やさしく抱きしめてくれた。
 頬を濡らしていた雫がそっと拭われる。

 瞳を開けると、今度ははっきりと士郎の顔が見えた。
 ここ数年、わたしのそばにずっといた顔。いてくれた顔。
 でも、見慣れたはずのそれが、時々、ひどく遠くに感じることがある。
 彼の瞳が、わたしではなく、はるか彼方にある別のものを追っているような気がして、時々不安になる。

 そこにいることを確認するように手を伸ばす。
 少し癖のある、硬い髪に触れる。
 赤い髪。
 まだ、確かに赤い髪。
 まるで癖のように度々繰り返すこの行為。

「大丈夫だよ、遠坂」

 それに対して、士郎のほうも口癖となってしまった言葉を返す。
 それが、あいつの最後の言葉と同じだということを、士郎は知らない。
 だからか、安心すると同時に不安にもなる。

 士郎はわたしの上からどいて、疲労した体をベッドに横たえた。
 自然と、わたしはその胸に顔をうずめる。

 急速におとずれる睡魔にまどろみながら、いつまでこうしていられるのだろうかと考える。
 変化を望まず、今をよしとするなんて自分らしくないけど、それでも、いつまでもこうした時が続けばいいのにと思う。

 でも、それはありえない願いだ。
 士郎はいつか、あいつの背中を追いかけて歩きはじめることになるだろう。
 それは不安にも似た確信。

 その時、わたしはどうするのか。
 士郎と袂を分かつのか、それとも共に歩むのか。
 その答えはとうの昔に出ている。

 士郎の馬鹿には……取ってもらわないといけない責任がたくさんある。
 一人で勝手にいなくなるのを許すわけにはいかない。
 どこまでも、共に歩く。

 それは、もういない男との約束。金髪の少女の願い。

 覚悟しておきなさい。
 そう、胸の中で呟く。



 そしてわたしは、暖かく火照るお腹を優しくさすりながら、静かに眠りについた。




あとがき

実に、二ヶ月ぶりとなるFateSS
それがまたしてもエロSSだという事には、なるべく気づかない振りをする事にします。
女性視点でのこういうシーンっていうのは初めてなので、上手く書けているかどうかは不安ですが、書くのは結構楽しかったです。
いずれセイバー視点でも書こうかなあ、と。

では、また次のお話で。
今度はできるだけ近いうちに。

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