◎この原稿は県小医会の平成15年度会報の巻頭言の原稿です。
     障害児教育に思う
            山口県小児科医会 会長 砂川 功
               (小野田市 砂川小児科医院)

 私は、地元小野田市の就学指導委員会委員を20年近く経験してきました。就学指導委員会とは、毎年市内各校区で行われます就学児健診で問題ありとされた児童の適正就学をいかにするかを話し合うことと、すでに就学している児童生徒についても問題ある児童生徒について現在適正に就学がされているかどうかを話し合います。

 委員会構成は市教育委員会、学校関係者、児童福祉関係者、市保健担当者、それに私ども医療関係者として小児科医、精神科医の2名が参加して医療的立場から意見を述べます。ここで「話し合います」と表現しているのは、この就学指導委員会の考えは決して強制力はなく、対象となっている子どもにとって一番適正な就学先はどこかを考え答申を出すことにあります。

 毎年委員会に先立って就学相談会が行われます。対象となっている児童の御両親と本人に来て頂いて委員がそれぞれ役割分担して御両親の意見を十分に聞く面接相談と、他の委員は対象児童とお絵書きとかお遊びを一緒にしながら対象児童を観察をします。その就学相談会の結果に基づいて委員会としての意見をまとめます。

 委員会の役割はここまでで、この後は市の教育委員会の担当者がその保護者にその結果を説明し適正就学の同意を求めます。

 しかし、ここからが問題でその保護者から適正就学先の同意を求めることが大変な作業になるのです。障害の程度によって重度、中等度、軽度の施設があるのですが、結果は決まったように多くの保護者が就学指導委員会の答申よりかは軽度の施設への就学を希望します。

 かなりの障害を認めても自分の校区の普通学校への就学を希望するのです。適正就学と言っても、あくまでも保護者の同意が得られないかぎりは強制出来ません。

 教育委員会の説得にも関わらず結果の多くが保護者の希望にそった就学先となるのです。そしてそこに就学していくのですが、やはりその学校ではその子にとっては適正就学とは言えず、その子が入った普通学級の教師たちはとっても大変なことになり、当然の結果としてその後の毎年の就学指導員委員会にその子どもがリストアップされて来るのです。

 そして同じような議論が毎年委員会でなされるのですが、こちらの努力にも保護者の理解がなかなか得られず無力感だけが残ります。それでも時に保護者の理解が得られ特殊学級への変更があったり、以前に特殊学級へ就学していた児童生徒がその後の発達程度によって、普通学校に編入していく事例などを経験しますと本当に嬉しく思います。

 このように障害児教育は、今迄は小野田市にかぎらずセンター方式で特殊学級などの特殊な環境で対応されていました。がしかし平成15年度から、文部科学省は特殊教育という視点を特別支援教育という視点に方針を大きく転換しました。特殊教育が特別支援教育へ、特殊学級が特別支援教室へ、盲・聾・養護学校が特別支援学校へ変わろうとしています。

 集団の教育から個別支援に変わっていくのです。これからは障害をもった子どもたちは地域のいろいろの専門の人達の力を借りながら、その地域の皆んなで支えあっていくことになります。

 私が長年就学指導員委員会の委員を経験して感じていたことは、軽度の発達障害をもった子どもは私どもの外来診療上はほとんど正常児とかわりません。でも、教育現場では大変な思いで対処しております。このような事実をよく理解して小児科医は意見を述べることが大切だと思いました。

 障害児教育は医療とくに育児支援、地域医療に深く関わっている我々小児科医は大切な立場におかれています。教師でもなく保護者でもなく私たちだからこそ言えることがあります。

 今後とも、山口県小児科医会は、この障害児教育を大切な事業の一つとしてとらえ、会員へこの問題の各種研修会へより多くの参加を呼びかけると共に、より良い制度にむけて行政、教育委員会等へ積極的に医会として意見を述べていくつもりです。