失敗山日記 U−
とび出した大型獣 in 田代岱湿原
(秋田・岩手県境、乳頭山付近 961012
by 山へ行っちゃあいけない男(登山不適格者?)
ジャンプ ( その2 その3

その1
 

 秋田・岩手県境の笹森山〜乳頭山間のどこかで、見事に紅葉したプリン状の山塊を見たことがあります。
 メルヘンという言葉が連想されるようなそのときの光景が、後になって度々思い出されるようになりましたが、地図で場所を確かめておかなかったのが運のつき。その場所を特定できずにいました。
 その後の秋田駒訪問などで、その山塊は秋田県側の大白森<脚注>らしいと考えるようになり、この夏初めて大白森を訪れてみました。しかしあの紅葉の感動は勿論味わうことはできません。
 となれば秋に訪れるしかありません。あの素晴らしい紅葉をより近くでみたいものと、秋の大白森訪問を計画しました。

 夜遅く東京を発ち、東北自動車道を盛岡に向かいます。ところが那須の辺りで思わぬ事故渋滞に遭い、登山口の孫六の湯に着いた頃は完全な朝。期待していた車中仮眠も出来ぬまま、歩き出すことになりました。
 田代岱湿原で一休み。大白森方面への尾根道に入って間もなく、2人連れのパーティーに出会いました。彼らはこの先は熊が出るというので引き返して来たとのこと。
 この辺の山に”森の王者”の熊がいるのは当たり前。音を立てながら行けば熊は通り過ぎるまで隠れていてくれるはずと、弱気になりがちな心を抑え、赤、黄、橙、茶、黄緑とさまざまに紅葉した樹木の中に入っていきます。

 進むにつれ、立ち止まったときに藪の中から聞こえる、ポキッという小枝の折れるような音が耳につくようになりました。こうなると私の悪いクセで、先ほどのパーティーの言葉も思い出されます。
 それに徹夜の疲れからか、ペースも上がりません。やっと大釜の湯方面への分岐を過ぎ、ようやく大白森らしい山塊が見えてきました。

 しかし光の加減でしょうか、大白森の紅葉は期待していたほどの美しさではありません。またそのフォルムも、見る場所の違いから、あのときとは比べものにならない平面的なものです。自然現象で最初の感動に匹敵するものを味わうには、余程の時の運が必要なようです。
 こう考えると、先に進むことはあまり意味がなさそうです。それに秋の日はつるべ落とし。大白森まで行くと、帰りは暗くなりそうな気配です。結局、ここで戻ることにしました。
 撤退と決まれば、少しでも美しい大白森の紅葉をビデオに収めたいもの。少し粘ってみましたが、やはり満足のいく赤さにはなりません。今年の紅葉は”外れ”と判断し、帰路につきました。

 帰り道は早いもの。一気に田代岱まで戻りました。あとは森林帯を降るだけです。東北の山もしばらくは見納めと、木道に立ってビデオを構えます。主に遠景を撮っていましたが、何かを予感したのか、眼がファインダーから外れ、右前方を向きました。
 視界にとび込んできたのは、10数m先のゆるい斜面を、斜めにこちらに駆け下りる動物です。大きさははっきりしませんが、大型犬ぐらいの大きさでしょうか。しかし一瞬合ったクリッとした眼に私は敵意をみたように感じました。

  
 * 大白森  裏岩手には大白森とという高層湿原がもう1つあります。
ここでふれた大白森の北東、直線距離で5kmほどの所です。
 
*連載の読み物のように、1日1ページずつ読んでいただくのが私の希望です。
 
  
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