わたしも街道をゆく/1990年/北海道へ
わたしも街道をゆく 1990年 北海道へ

1990年8月4日 東京から函館へ 
 どうしてなんだろう。東北自動車道を走りながら、思う。この道が北海道に続いている。ただそれだけのこと。なのにどうしてこんなに胸が高まるのか。
 だってべつに北海道は、一年にいっぺん、日本の北の海上に現われる幻の島なわけではないし、それはいつでもそこにいるのに。残業続きでヘトヘトのときも二日酔いで苦しんでるときだって。
 だけど、この道の向うに、それがある。それはわけもなく私の心を波打たせる。

 …と思い込み一杯で走るはずだった東北自動車道。ああなのに思いっきり寝坊してしまった私。なんだかやけにぐっすり熟睡したなあと、目が覚めたのは午前3時半。青森港を、予約したフェリーが出るまで12時間しかない。東京〜青森700km、のろまな私じゃもう間に合わない、私の夏は終わったのだろうか。人生最大の茫然自失。

 でもVTZと私は頑張った。命を捨てた時速140kmで追越し車線を走る走る。前を走るベンツが、どいた。とにかく時間に間に合うことしか考えられない、自分が今どこに向かっているかなんて、どうだっていい。

 遅れは取り戻した、もう大丈夫。安心したらお腹が空いた。SAでゆっくり休憩。その時「どこまで行くの?」と言う問いかけに「北海道です」といった瞬間、あ、私は北海道に行くんだっていうことが、急にずしんと心に沁みた。

 バイクの免許を取ったのは3年半前。北海道は最初から憧れの土地だった。でも、「北海道はとにかくいいところだから、一回行くと他のどこに行っても、やっぱり北海道がいいや、って思う」と聞いた時に、私は決心した。それじゃあ他の土地がかわいそうだ。比較したりしたくない。そこはそこで感動したい。だから日本中走った後で、北海道は最後に行こう。そう思ってた。そして今私は北海道に向かっている。

 青森のフェリーターミナルへ。陸橋を上りきると、海が、埠頭が見える。フェリーの時間に間に合った事ともうすぐ北海道だって事がごっちゃになって、泣きそうになる。たくさんのバイクたち。初めての人も何度目かの人もみんな北海道にいっぱい夢をもって、ここにこうしているんだよね。そして私もその中のひとりなんだ。

 フェリーの中では、高速道路のSAで会ったオジサマと、一杯やりながら(ごちそうさまでした、ビール。ちょっとだけだってば)おしゃべり。
 最初に見えたのは函館山。フェリーはどんどん港に近づいている。
 そして上陸。はじめの一歩は右足。ばかみたいだけどはじめの一歩の写真を撮っちゃう。足の下に北海道があるんだなあ、なんだかすごいや。

 夜の函館、友達の弟さんに案内してもらって、満喫。なんだかんだといったって、函館山から見る夜景には感動してしまう。ハリストス聖教会、公会堂、ライトアップされててとてもきれいだ。話題のベイエリアがこれまたオシャレ。ウニ刺もおいしくってニコニコ。
 宿に戻ってきてTVを付けたら北海道地方の天気予報をやっていた。当たり前なんだよね、でも嬉しくってしょうがない。


次の日に進む

「わたしも街道をゆく」top pageに戻る