起きしなに見た夢の中、雨が降っていた。カッパも持たずに来てしまったなんて信じられない。目が覚めて窓の向こうをのぞくと降っていない、ヨカッタ(ちなみにホントにカッパは持っていなかった)。
いかにも絵に描いたような民宿の朝ご飯(鯵の開きと味付け海苔と生卵は必須アイテムである)を済ませて、出発。無事にうちまで帰らなくちゃね。
千倉の海岸線を走ると、海。わあ海だー、って口に出して言ってみる。ヘルメットの中にも潮の香りがいっぱい、気持ちがいいなあ。道端のお花畑のたまご色の花の前で写真を撮っていたら、ホーンが鳴った。振り向くと通りすがりのバイクからピースが飛んできた。アナタも気持ちよく走っているんだね、私もとってもいい気分。一瞬のシアワセを共有できた、こういうのってバイクに乗ってないとわからない感覚だと思う
トンネルの多い天津小湊、勝浦を抜け、一宮町で右折すると、九十九里有料道路、波乗り道路だ。道路はすいてるし、海はきれいだし、最高だなあ。アクセル開けてびゅんびゅんと風を切る。
波乗り道路を離れてどんどん北上。地図を見て海沿いの道を選んだのに、海なんてちっとも見えないじゃない。両側には民家ばかりでちょっとがっかり。でもあちこちの空に鯉のぼりが泳いでいる。10匹くらい並んでいるのもあった。そう、もう少しで子供の日、鯉のぼりたちも気持ちよさそうだね。
大学の先輩の実家のあるあたりを通る。…K先輩、けっこう田舎に住んでたのですね。このあたりは住居表示が、イとかロとかなのだ、ちょっとおもしろい。
内陸の道に飽きてきた頃、やっと銚子に着く。銚子有料道路から、屏風ケ浦が海に切り立っているのが見える。日本のドーバー海峡、だそうだ。牛臭い有料道路の最終コーナーは、ぐるりとヘアピン。げげ、コケたらどうしよう。その上なぜかカーブのところにはギャラリ―が。どうやら地元少年たちのライディングスポットになっているようだ。コケて笑われたくないので必死でクリア。よかったよかった。
犬吠崎に着いた。灯台に登り、でっかい太平洋を眺める。視界の全てを海が占める。いいなあ、海って。
次なる目的地は、成田山。R126、296を走ると両側の苺摘みの看板がおいしそうだけど、それ以外はなんだか退屈な道。いくら走っても成田山に着かないし、間違えたのかしら。
と思っていたら、げ、成田空港だ、なんで? 飛行機がいっぱい停まってる、すごい…。なんて言ってる場合じゃないでしょ。私が行きたいのは空港じゃなくて、お寺なんだから。誰かに道を聞こうにも機動隊のお兄さんしかいない。あのー、なんて近寄っていったら逮捕されちゃうかもしれない(なんで?)。どうしよう。
地図を見たって現在位置がわからないんだから、こうなったら頼れるのは勘だけ。適当に走ってたら、あったもんね、成田山の看板が。へへ、鋭い勘だぜ。
なんとかたどり着いた成田山新勝寺でお守りを買い、自分もまわりのバイクに乗っている友達も、安全運転できるようにとお参りをする。参道で、千葉名産落花生の甘納豆を<買って、さあ帰ろっと。
R296を走っているはずなんだけど、どうも不安。道の脇に止まって地図を見てもわからない。少し先にある標識で確認しようと走ろうとしたとたん、道端の溝に前輪がはまってしまった…。
持ち上げようとしたって言うことをきかないし、通りすぎる車は1台だって止まってくれない。みんな薄情なのね…(こらこら甘えるな)。電話で東京のバイク屋さんを呼ぼうかとまで思ったけれど、あきらめずにエンジンをかけて、アクセルをあけてみたら脱出に成功した。ああ、つかれた。かなり体力を消耗してしまったようだ。まったくばかなんだから。
正しいR296は渋滞していて、慣れないすりぬけの連続でますます疲れる。でも、標識に「東京」という文字を見つけて、ほっとした。もう少し、気を引き締めて頑張ろうね。家に帰るまでがツーリングです。
でも、いつのまにか京葉道路の入口にいたのはなんでだろう、高速道路なんて走りたくないのに(っていうか走ったことない)。薄暗くなってきていやだけど、料金所の手前でUターンする訳にもいかず、とりあえず乗って、すぐ次の出口で出ようとしたら、そこは出口じゃなくてパーキングエリアだった。やっぱりばかだ…。
そのうちまあなんとか市川インターで降りることができたが、このあたりなんて走ったこともないし持っている地図にも出ていない。もうなんでもいいやと適当に走っているうちに、見覚えのある道に出ることが出来た。
日はもうすっかり落ち、家路を急ぐのか、まわりの車はみんな猛スピードで殺気立って走っている。でも私は飛ばさずゆっくり無事安全に、家に向かう。
そして私がまずしたことは白い日本地図を広げること。赤いペンで、この2日間走った道をなぞってゆく。いつかこの地図がまっ赤に塗り潰されますように。
私のソロツーリング好きは、この2日間の影響がかなり大きいみたい。だって本当に楽しかったんだもん。だから、私の場合、ツーリングの原点は房総にあるといっても過言ではないかもしれないなあ。