山川惣治と絵物語の世界page1514  

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15.山川惣治の絵の魅力14 マンガに近い輪郭線

山川惣治はマンガがかけました。椛島勝一が「正チャンノバウケン」をかいたように。

「ノックアウトQ」の中で主人公章治が日日新聞の投稿マンガに入選し、正月十一日に新聞に掲載されたと書かれて います。「映画ファンのゆめ」という題で、そのマンガそのものか、書き直したものが絵物語のコマとなっています。 仰向きに寝転がった青年の夢の絵です。これは山川惣治自身の体験をそのまま書いたと思われます。

「三浦朱門のコミック談義」という本にはこれをうらづけることが書いてあります。東京の八重洲ブックセンターで 生まれた日の新聞をコピーしてくれるそうです。三浦が大正十五年一月十二日のコピーを頼むと、毎日新聞か日日新聞 のコピーに投稿漫画の優秀作として「青年の夢」という題の作品が載っており、作者は「山川惣治」であった。寝転 がった青年の頭上に広がる夢の中でフィルムとか、劇映画らしい一こまとか、スターらしい人物とかが書かれていた そうです。三浦朱門は山川惣治がこの時期には映画作者になることにあこがれていたのだろうと推測しています。この 内容は日付けが一日違うだけで、「ノックアウトQ」のエピソードとそっくりです。

漫画の特徴はちいさなコマの中で、線の微妙な引き方一つで、人物をあらわさねばならないことです。山川惣治の 絵をみると、小さなコマの中で、人物の顔もたいへん小さな絵をよくかいており、漫画を書いていた修練が役立った のではないかと思います。

「荒野の少年」は西部劇ですが、アメリカの物語らしきリアリティは人物の服装と、舞台となる西部の景観から生み 出されています。とくに、岩山などの描写が雰囲気づくりに大きな役割を負っています。しばしば、雄大な景色の中で 人物は小さく描かれます。人物は小さく描かれても、ちゃんとだれであるかがわかるように書けています。ペン先での 微妙な線の効果は漫画に匹敵します。

椛島勝一など戦前の挿し絵画家は、2ページ見開きに1枚の挿し絵を書きました。椛島はしばしば筆でかきました。筆 では細かいところはかけないので、彼は、挿し絵では、光りと影のコントラストの大きい絵をかきました。山川は 1ページに数コマの絵物語を書いたので、必然的に小さな絵になりました。小さな絵を書くのに役立ったのは、(1) 青年時代に漫画を書いていたこと(2)椛島勝一の精密ペン画を練習したこと(想像)(3)戦時中、紙質が悪くなり、 絵も小さくなった。そのころ、せっせとカットなどをペンで書いたこと(想像)の3つと思います。


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