14.山川惣治のライバルたち 宇田野武
宇田野武=武部本一郎の絵物語『月影四郎』の古本(少年画報ふろく)をインターネットで手に
いれることができました。
「月影四郎」が「醍醐天平」に比べて、成功しているのは、喜劇的人物二人がうまく書けているせいと思います。
好人物の宝石商・玉田氏と、友達の弁ちゃんこと弁吉が話を面白くしています。「醍醐天平」のほうはきまじめな主
人公だけで、喜劇的人物に欠けています。
宇田野武の絵物語は、まんがにくらべて、コマとコマの間の飛躍が多く、独特の時間が流れています。地の文はほと
んどなく、たまにあっても、そこには言わずもがなの説明がかいてあることが多い。ストーリーはほとんどが絵と台詞
で説明されます。ですから台詞はとても大事です。つぎののコマで、玉田氏の台詞は短い中によく性格を表わして
います。
また次の絵の大きなコマで、ハンマーの鉄のセリフもよくかけています。
ほかに言い方はないでしょうか。「ぼうや、おゆうぎはやめにしょうな。」「あんちゃん、がんばったな。ここまで
だよ。」「てこずりすぎだよ。見ちゃいられねえ。」「休んでな。ちゃんちゃんかたづけてやらあ。」「ぼうや、
少々はやるようだな。」....面白いですね。シナリオライターになったみたい。
わたくしが子供のころいちばん感心したのは、暴力団員と死闘を演じながら、主人公が、きょうはふるさとに帰る日
だったのに、と思うシーンでした。ケストナーのクリスマスに帰る話、ウールリッチの短編「クリスマスに帰る」が
連想されます。その伏線は付録のはじめの方にあり、「正月に帰りたい」という主人公の希望がたびたびくり返され
ます。よくできた、叙情的なストーリーです。