14.山川惣治のライバルたち 中原淳一
昭和30年ころ、読売新聞には産経新聞の向こうを張って、子供向きの絵物語が連載されていまし
た。
壇一雄作、玉井徳太郎絵の「少年猿飛佐助」。江戸川乱歩作、古賀亜十夫絵の「探偵少年」、それから、多分北条誠が
文を書き、中原淳一が絵を書いた少女むき絵物語がありました。
図書館で「絵物語」をキーワードにして検索をかけると、中原淳一著「名作絵物語」という本がみつかりました。これ
ぞ、過ぎし日に、少女向けをものともせず読んだ、読売新聞連載の絵物語かもしれん、というので、勢いこんで、閉架
から出してもらいましたが、これは世界の名作のダイジェストを中原淳一の絵でかざった再話で、新聞に連載されたの
とは別のものでした。中原淳一は読売新聞の絵物語だけでなく、他にも絵物語を書いていたのでした。
もっとも、よくみると、挿し絵程度の絵の密度でした。絵物語とはとても言えない程度のものです。大部分が文字で
占められています。上の絵は「赤毛のアン」ですが、中原淳一がいつも描く、目が大きく、鼻筋の通った、肉感的な唇
の少女が、赤毛のアンの扮装をして、こちら向きにすわっているだけのことです。他に「あしながおじさん」、オペラ
物語「蝶々夫人」、「イノック・アーデン」、「白鹿姫」「たけくらべ」などがありますが、いずれも、全く同じ顔の
少女が髪型や衣装を変えて、読者の方を向いて、大きな目で意味ありげにみつめている絵ばかりです。いろんな映画で
いろんな役をするが、すべてオードリー・ヘップバーンであるというのと似ています。
「赤毛のアン」は原作者がなくなって50年たたないと思うのですが、勝手にダイジェストを作って良いのでしょうか。
7ページで、「赤毛のアン」のさわりのところが読めてしまいます。しかも、アンが自分のことを「あたし」と言った
りするのは、少々、「下町すぎる」ように思います。読むとですね、非常にべたべたして、甘ーいアイスクリームを
付きあわされたような気がしました。(殆ど読んでおりません。)
絵を取り込むために借り出しました。貸出し係の女性はプロですので、へんな男性が女の子の読むような甘い本を借り
出しても、平然としていました。しかし、机の上で読んでいるとき、向かいの小母さんは、あきらかに、居心地のわる
そうな様子をしていました。変態と思われたかもしれません。