14.山川惣治のライバルたち 白井哲
白井哲の「獣人ゴリオン」。
香山滋が文を書いています。大冒険絵物語と銘うたれていますが、挿し絵の多い読み物とかわりません。
この号に乗っている江戸川乱歩の「灰色の巨人」も中村猛夫の挿し絵が毎頁出てきますが、絵に比べて文の量が
やや多いようです。そのほかは似たもので、絵物語と読み物の間に明確に線を引くことはできないように思います。
(ページあたりの絵の数が違うようです。)
香山滋原作のゴジラがヒットしたころで、「獣人ゴリオン」も映画化決定と書かれており、期待していましたが
映画にはなりませんでした。ゴリラとクジラをミックスしてゴジラなら、ゴリラとライオンの中間生物もいて
いいはずだといういい加減な発想ではじまったようです。人気がでなかったので映画会社が二の足を踏んだの
かもしれません。このころ「獣人雪男」という映画があったように思いますが、雪男は白いゴリラといった感じ
でした。ぬいぐるみが作りやすい企画にくらがえしたのでしょうか。
ゴリラとライオンの中間生物がいてたまるかと読者が思っても、実際に絵に描いてしまうのが絵描きのすごいところで
ゴリオンの顔のクローズアップは連載中たびたび出てきますが、その本当らしさはすごい。そのほかは毒とかげ
に襲撃されて墜落するインド人のシーンが印象的でした。山川惣治の「幽霊牧場」にアメリカの毒とかげが出て
きます。「虎の人」にもインドの毒トカゲがでてくるそうですが、「獣人ゴリオン」の毒とかげは山川惣治の影響
かもしれないと思っています。
白井哲はたいへん垢抜けた絵を書くひとで、登場人物の顔などは小松崎茂の人物よりもモダンなほどです。
「獣人ゴリオン」のほかにも南洋一郎の文で絵物語「緑の無人島」を書いています。デッサンは正確で、
あまり誇張がありません。
「緑の無人島」の中にコモド島のおおとかげ、コモドドラゴンがでてきますが、なかなかの迫力でした。山川惣治の
「少年タイガー」の冒頭に大トカゲがでてきますが、これは山川惣治が多少「緑の無人島」を意識したのではないかと
思います。「少年タイガー」のトカゲのほうが口の先が丸くて不格好ですが、実際のコモドドラゴンには
よく似ています。山川リアリズムでしょう。
白井哲氏は岩崎書店のベルヌ冒険全集の「神秘島」の表紙を描いていました。広告の絵などで、モダンで幸福な家庭
などを描かせたら似合いそうに思います。