14.山川惣治のライバルたち 阿部和助1
阿部和助は山川惣治のお弟子さんでした。小松崎茂には沢山のお弟子さんがいますが、
(ボックスアートのチャンピオン高荷義之など)山川惣治にはひとりしかいません。阿部和助氏は山川惣治の
背景を随分手伝ったそうです。本当でしょうか。阿部氏の画風は山川惣治そっくりですので、そのようなことも
あったかもしれません。手伝っているうちにそっくりになったか、そっくりなので手伝わせてもらえたのか。
阿部和助の作品はたいへんわかりやすく、その絵は親しみ深いものでした。同じような絵物語で、阿部和助より
絵が上手なひとは沢山いたようですが、阿部和助の作品の方が印象に残っていることが多い。そのように人を
ひきつける絵を書く技術を師匠から学んだのでしょう。
ただお師匠さんの山川惣治と比べると阿部和助氏にはどうしても師匠を越えるものがなかったように思います。
背景の手伝いをしたというのが半ば信じられないのは、山川惣治の背景は、阿部作品の背景とはやはり違うから
です。
(最近私は山川惣治の作品の中に阿部和助のタッチを探すようになりました。山川惣治がすぐれた作品を残せた
のは、阿部和助の協力があってこそだと思うようになりました。ロダンの傑作のかげに弟子のカミーユ・クローデル
の存在があるように。)
しかし私の読んだ作品の中で、香山滋原作の「ゴジラ」だけは山川惣治にないものを感じさせました。おもしろ
ブックのとじこみと次号の付録別冊の2回にわたって書かれた「ゴジラ」は阿部和助の代表作と思います。
「小松崎茂絵物語グラフィティ」の中で根本圭助氏は絵物語「ゴジラ」の作者として阿部和助を紹介しました。
ゴジラがだれでも知っている作品だからということもあるかもしれません。しかし私などは、小松崎茂の弟子
である根本氏は山川氏の弟子である阿部氏の数ある作品の中で「ゴジラ」だけは、師匠の作品とならべてもよい
作品と評価していたと思いたいのです。
上の絵は別冊付録の口絵ですが、「少年ケニヤ」のティラノザウルスとも「少年王者」のブロントザウルスと
も違う迫力を感じさせます。ゴジラはティラノザウルスを100倍にしたような怪物ですので、その迫力が出たの
かもしれません。
この別冊の中で、ペンだけで書かれた絵と、筆を一部使った絵がありますが、筆を使ったために
山川作品にはない味が出せたのかもしれません。山川惣治は白黒の絵物語や挿し絵ではあまり筆をつかいませんでした。
少なくとも戦後の作品では私は知りません。山川惣治の兄弟子の梁川剛一は挿し絵の陰影をいつも筆でつけてい
たのに-----。別冊付録を1カ月で仕上げるのはたいへんなエネルギーがいるので、陰影をつけるのが簡単な筆を
使う頻度が「ゴジラ」の後半になるほどふえています。締め切りに間に合わすために筆をつかったのが、思わぬ
効果を生んだのかもしれません。