14.山川惣治のライバルたち 岡友彦2
岡友彦の描く主人公たちはたいへんスマートで、美化されていました。この点小松崎茂の主人公
と似ています。小松崎作品のようにあこがれる人もあったかもしれません。登場する女性も文句なく洗練されてい
ました。
作品がちがってもみんな同じ顔でした。しかし山川惣治のように毎回すこしずつ顔が違うということはなかった。
修練によっていつも同じ顔がかけたのでしょう。日本画の修行を相当した人ではないでしょうか。
しかし私などは、岡作品の悪人たちの方が面白かった。いろんな仮面、いろんな衣装の悪人たちがとっかえひっかえ
出てきました。たいてい底の浅い悪人なんですが、改心するなんてことはなかった。徹底して悪役だった。
ユーモア感覚もあった。正義の味方が登場すると、悪人たちは、げげっと大げさにおどろくのですが、背を丸め、口
を醜くゆがめて、驚愕する様はまことに滑稽でわらわせてくれました。写楽の役者絵に胸の前で指を開いてポーズ
する役者の絵がありますが、両手のゆびを胸の前でなにかをつかみたそうにすこし曲げてひらき、驚きをあらわす
のをよく見ました。
くさりかたびらを着た人物がよくでてきました。それからあやしげな西洋人がでてきたり、新兵器がでてきたり、
正統的な時代劇のパターンを破ろうとするSF的なところもありました。時代ものの小道具などの考証がしっかり
していたので、SF的な仕掛けが生きました。
岡友彦はなにか理想を作品で描くということはあまりなかった。叙情性もあまりなかった。徹底したエンタテイナー
でした。桃源社刊「白虎仮面」のあとがきで、「私が本当に描きたかったのは人間エネルギーというものである」
と言っているのは、「自分は全くのエンタテインナーである」と同義だと思うのです。
絵物語がはやらなくなってからマンガに転向することもなく、挿し絵に転向することもなく、少年週刊誌では
みることもなくなっていましたが、成人用の絵物語を書いていたそうです。WWWでそのことを取り上げた
サイトがありました。お弟子さんの一峰大二や、絵物語の手ほどきをした桑田次郎が大活躍をするのを見て、
いまさらマンガに転向するのもばかばかしかったのでしょうか。かれが徹底的なエンタテイナーであったことを
考えると不思議ではありません。