14.山川惣治のライバルたち 岡友彦
桃源社から絵物語の復刻版が出たとき、永松健夫の「黄金バット」などとともに岡友彦の「白虎仮面」がはいって
いました。それでもわかるように岡友彦は、山川惣治、小松崎茂、福島鉄次、永松健夫とともに絵物語作家の五本の
指にはいります。
岡友彦の作品は今読んでも最もリーダブルな絵物語でしょう。なぜならそれらは非常にドライで、読者をびっくり
させること以外にはあまり考えていないからです。作者のメッセージなどはあまりないので古びることがありませ
ん。一応勧善懲悪の物語になっていますが、作者は正義を信じているわけでもなさそうです。
「白虎仮面」も「飛竜夜叉」も全編これ仕掛けの連続、けれんの連続です。読者は次に何がおこるかとページをくらず
にはいられない。堀江卓のまんがに似ています。
たとえば昭和27年8月号の冒険王掲載の「白虎仮面」。月の介が道を歩いていると、突然たてかけてあった材木が倒れてきます。
物陰に隠れていた黒覆面の侍たちが、わっははつうかいだといってわらいます。月の介はかろうじて刀をぬきますが、
全く身動きがとれません。うーん、むねんだと髪を振り乱した月の介。どれ、ひとめにつかぬうちにかたづけてやる
か、とちかづく黒覆面。
するとどこからともなくなげなわが飛んできて、黒覆面の首にかかります。そのまま悪漢はもがきながら
屋根の上にひっぱりあげられます。すると奇怪!屋根の上にはマントをはおり虎の仮面をかぶった怪人がなわをたぐ
りよせているではありませんか。それは虎の面をかぶった人間というより、虎がマントをはおったようにみえます。
なわを持つ手はまったく虎の手で、化け猫が手招きしたようです。平然と悪漢をつりあげる虎の人は黒覆面以上に
恐い。
黒鬼頭巾という邪悪な怪人がでてきますが、これは昔の大将の甲冑についた面をつけた上に覆面をしているわけで
非常に恐い。あるとき月之介たちはだまされて怪船の舟底の落とし穴におとされてしまいますが、穴の上から
この黒鬼頭巾がのぞきこんで哄笑します。「わっはっは。おまえたちはこの舟底から出られぬぞ。かくごしろ。」
そのこわいこと。
もっともそのセリフは桃源社の復刻版のもので、昭和28年8月号の雑誌連載では、こうなっています。「わっはっ
は。おまえたちはこの舟底から出られぬぞ。ねんぶつとなえてかくごをするがよい。」桃源社版は縮小版ですので
吹き出しが小さくなり、セリフをつづめざるをえなかったのでしょう。雑誌の方がずっと憎々しげなセリフになって
います。岡作品が年少読者の気持を煽っているのがおわかりになるでしょう。