14.山川惣治のライバルたち 福島鉄次 2
福島鉄次の「砂漠の魔王」を読んで特徴と思われることは、(1)兵器のもつ実用的なしかも古い
感じの他に(2)動きを強調しない。むしろstaticな感じがする、(3)コスチュームの面白さが感じられる、の2点があ
げられます。
まず静的な絵について。
左の絵は怪艇隊の一員(?)であるフィン姫がアルバンの王城に潜入し、主人公ボップとプッセの部屋の前の番兵を倒す
場面です。
フィン姫は検問する城の番兵たちを走ってまきますが、走っている姫の衣服は隅々まで丁寧に輪郭がかかれ、流した
ところが全くありません(いちばん上のコマ)。衣服の襞の影も肖像画のように丁寧にかかれています。(山川惣治
の絵が常に流したところがあるのと対照的です)そのため、この走る場面はストップモーションの映画の画面のよう
になっています。、姫が走っている一瞬を切り取った静止画面のように静的な感じがします。
すそをもちあげて走る姫の姿はあでやかですが、まゆはややつり上がり気味で、油断ない表情にみえます。
つぎに部屋の前の番兵になにくわぬ顔をした姫が近づきますが、後ろ手に麻酔銃をかくしています(2番目のこま)。
麻酔銃といっても、消音器をつけたオートマチック・ピストルと同じかたちをしています。大きめの銃で、ここだけ
青色で塗られており、姫の白と赤のはなやかな服装とうらはらに不気味な存在感があります。番兵はけげんな顔つき
をしています。近づく姫の背の高さ!少し離れたところにいる番兵の体の小さく、か弱そうなこと!
ここで地の文には姫が麻酔銃で兵の太ももをうち、兵は知らぬ間に自分が倒れているのにきづき、おどろいて、何を
なさるっと叫んだとあります。次のこまにはすでに倒れている番兵とみおろすように立っている姫がかかれており、撃
った瞬間は描かれていません。
ここで番兵がうたれた直後、まさに倒れようとする瞬間を描いてもよかったと思うのです。姫はまだ番兵の足をピストル
でねらっており、目は番兵の顔をみている。番兵のからだは、その意志とは無関係に下半身からくずおれようとしてい
る。番兵はまだ何がおこったか、わからない、そんな瞬間を描いた方がわかりやすかったと思うのです。そのほうが
動的な画面になっていたでしょう。
しかし福島鉄次はそのようなバタバタした瞬間は描きあきたのか、描くのがいやなのか、かいていません。
かれがかいたのは、いつのまにか番兵の立っていたところまであがってきて、見おろして立った姫の、まるで撃ったのは
自分ではないといいたげな平然たる表情です。ピストルは無造作にからだの横にたらされています。
最後のコマで番兵がとろうとした銃をそっと足で遠ざける動作だけが姫の目立ったアクションとして描かれています。
魔王が暴れまわる場面がしょっちゅうでてくるのですが、山川惣治の全編アクションといった絵にくらべて、また大きな
怪物がおなじように暴れる漫画「鉄人28号」などにくらべても、このころの「砂漠の魔王」はstaticな感じがします。