14.山川惣治のライバルたち 福島鉄次1
山川惣治、小松崎茂と続くと次は福島鉄次です。
筑摩書房が「少年漫画劇場」でレトロまんがを復刻したとき、絵物語としては、山川惣治の「少年王者」、小松崎茂の
「大平原児」そして福島鉄次の「砂漠の魔王」が入りました。桃源社が同じく絵物語を復刻したときには、山川「銀星・
ノックアウトQ」小松崎「地球SOS」「大平原児」、永松健夫「黄金バット、」岡友彦「白虎仮面」という顔ぶれでした。
常に「冒険王」の巻頭で、カラーページで連載された「砂漠の魔王」の作者は絵物語作家の三本の指に入ると思います。
しかし私自身は「砂漠の魔王」を連載中は2回しか読んだことはなく、あとは筑摩書房刊「少年漫画劇場」で一部を読んだ
だけで、全貌は知らないのです。手持ちの資料でわかることを書きます。
砂漠の魔王はアメリカン・コミックスと同様赤青黄緑の4色で印刷されています。実際は編み目を印刷する技術によって
黄緑やピンクなどの中間色もでています。福島鉄次は戦車などの兵器を描くのが得意だったのでその作品は原色の悪夢といった感じ
(上の絵)です。
潜水艦と戦車を一緒にしたような兵器---怪艇が登場し戦争場面の連続となる怪艇隊のエピソードが最もおもしろいと少年
漫画劇場の解説に書いてあります。
怪艇隊の絵をみると、よくもまあこんな変な兵器を考えたものだと、うれしくなります。しかしその細部は非常に正確に
描かれており十分な現実味をおびています。福島鉄次はおそらく戦争中に兵器のスケッチを多数するうちに兵器の持つ
本質を描ける腕を獲得したのではないかと推定します。
兵器の持つ一面、それはとにかく敵を撃滅しなければこちらがやられるという、格好を言っておられない、身も蓋もない
切実さのようなものです。格好は悪くとも相手を殺すためにはやむをえないとして、堂々と行われる妥協です。旧式の戦車の
砲塔のまわりに鋼鉄の箱を沢山溶接して、対戦車ミサイルに備えたり、第2次大戦のドイツ戦車が磁石つきの吸着爆弾を防ぐた
めにコンクリートを装甲にぬりつけたり、銃の先に銃剣をつけたり、日本兵が南方の暑さを防ぐために軍帽のうしろにハンカチ
をたらしたり、兵器や衣服を目につきにくい迷彩にしたりといったことです。兵器にはこのような殺気がみなぎっています。
深海魚の口がいったん捕まえた獲物をのがさぬよう大きくできているようなものです。兵器は最初の設計通りの型がそのまま
使われるのはまれで、装甲を分厚くしたり、にわかづくりの砲塔をくっつけたり、大砲をひとまわり大きいのにとりかえたり、
とにかく勝つためにあらゆる改良、不格好な改修が行われるのが普通です。そのため兵器には格好悪さ、殺気を含んだ格好悪さ
がつきものです。美しい日本刀より、先が重い青竜刀のほうが人間をきるには便利なように。
福島鉄次の描く戦車は小松崎茂の戦車、飛行機、軍艦とは違って格好よくありません。しかし小松崎の兵器にはない実用性を
感じます。本当に戦争に使われるのはこんな兵器だと言う感じがします。(怪艇の右側にはステップがあり、左側には
ないのです。)