14.山川惣治のライバルたち 小松崎茂2
小松崎茂の絵物語のもうひとつの特徴は、人物や動物がバタくさく、スマートで、上品なことです。
上の絵は宇宙王子のひとこまですが、白人の顔がいかにも白人らしくかかれています。しかもひとりひとりがたいへん
上品にかかれています。ノーマン・ロックウェルの描くアメリカ人のようです.
「ロマンとの遭遇」の中で、漫画家山根赤鬼は
「小松崎茂は外人かと思っていた」という表現で、小松崎作品のバタくささを表現しました。山川惣治のライオンは
よく見ると日本人の顔をしているのですが、小松崎茂のライオンはアメリカ人の顔をしているのです。ですからアメリカ
大陸の野生動物、クーガ−(昔はピューマといった)や、ジャガーやバイソンを小松崎がかくと、よく似合っている
ように思います。
同じく「ロマンとの遭遇」の中で、マンガ家川崎のぼるは「馬の絵は小松崎茂の作品を見て、練習した。」と告白して
います。「大平原児」や「平原王」の馬のスマートさは抜群です。馬を書かせると、動物画の第一人者である山川惣治
も小松崎茂には一歩譲ると思います。(山川ファンとしては「少年タイガー」の中のカラハン大王の乗馬の絵で対抗し
たいと思います)
小松崎茂の絵があまりにもスマートなのは、氏が長年日本画の修行をしたためと、師の小林秀恒の影響を受けたためと
思われます。日本画は、私たちのまわりの世界から美しさをすくいとって、写すものではないでしょうか。また小林
秀恒の挿し絵をみると、主人公の顔などは「こんな日本人はいない」と思えるくらい「白人化」されています。
根本圭助著「異能の画家・小松崎茂」(光人社NF文庫・平成12年)を読むと、小松崎家には何人もの弟子や居候が
同居しており、梁山泊のような様相を呈していたそうです。これらのお弟子さんたちを推薦して、雑誌連載の機会を
次々に与えたため、修行途上の習作が雑誌に氾濫して、絵物語時代の終焉を早めたのではないか、と邪推したくなる
のですが、小松崎先生自身は全くそのような計算ができない、人情に厚い、表裏のない性格の人のようです。
それで山川惣治も書いています。「小松崎君は、本当に誠実な人で情に厚く、親切で後輩のめんどうもよくみる。私
は、いつもその人柄に敬服しています。七つ年長の私をいつも「兄」と立ててくれて、その人柄が作品に良く出てい
ます。」---その人柄が作品に良く出ている!まさにそのとおりと思いたいです。