14.山川惣治のライバルたち(1)小松崎茂
小松崎茂は山川惣治と並ぶ、日本の少年絵物語の雄でした。彼の代表作は「地球SOS」と
「大平原児」と言われていますが、(桃源社の復刻版はこの2作品)その他にも「平原王」、「森の英雄」、「宇宙王子」、
「海底王国」、「銀星Z団」「地球をねらう男」「スピードキング」などのすばらしい作品をつぎつぎに書きました。(私が読んだ作品
をあげました。)特に空想科学絵物語では右に出るものがなく、密林絵物語の山川惣治と人気を二分していました。
小松崎茂の絵物語の特徴のひとつは、雑誌の見開き2頁にわたる、シネマスコープを思わせる横長の画面が必ず出てくる
ことです。そこにはたいてい、ひろびろとした雄大な景色と、躍動する人物が描かれます。上の写真は「宇宙王子」の1場面で、
豪華客船へむかって空中スクーター「ロケット」で飛翔する宇宙王子ピットを描いています。この雄大で美しい構図をごらん
ください。(人類文化社刊「小松崎茂絵物語グラフィティ」にはこの宇宙王子全巻が付録としてついており、このあとピット
がニューヨークの高層ビル群の間をぬって飛び回る、おどろくべき画面がみられます。)
山川惣治が絵物語を書きはじめたとき、それまでの少年月刊誌の常識を破る大量の絵を毎月描いたので、あれを続けると
病気になるだろうと言われたそうです。ところが小松崎茂が絵物語を書きはじめると、山川以上に細かい絵を描き、さすがの
山川も驚嘆したのでした。「少年王者」を読むと、最初はアメリカンコミックを思わせる省略した輪郭線で、あまり陰影をつけない
絵が続きますが、豹の老婆の登場のころに、戦前の少年倶楽部の細密画を思わせる、陰影の多い絵となります。少年王者の絵の細
かさはこのころがピークで以後やや流した感じになります。このころ小松崎が登場し、山川もかれへの対抗上、細かい絵になった
のではないかと思います。
小松崎茂の描く、宇宙船、航空機、飛行服などは天下一品でした。宇宙王子を読むと、ピットの乗る空中スクーターである「ロケット」
はすばらしくリアルに描かれており、30年たった今みても全く古びていません。これは驚嘆すべきことです。手塚治虫でさえ、「旋風Z」
の中で、主人公の助手ロボット兼空中乗り物に「ジェット」と名前をつけ、「ロケット」の妹であることを示しています。